池井戸潤『M1(エムワン)』
講談社,2000. 365p.

 M1とは,「狭義のマネーサプライを意味する記号で,現金と預金の総量を指す」とのことである。主人公は総合商社で企業調査を専門としていた35歳の男で,リストラにあい,現在は東京の私立高校の教師をしている。その教え子の女子高校生の父親が経営する企業が不渡りを出したが,ある取引先の社債を持っている。そこで社債を償還して貰うために木曽川の中流にあるその会社を尋ねる。町はその会社の企業城下町である。ところがここで,西郷札のような紙幣が流通していることを知る。資金洗浄の仕組みとこの私的通貨がテーマであるが,企業の資金繰りを含め素人にもよくわかるような丁寧な説明がなされるのでよくわかる。企業城下町で西郷札のようなものが流通しはじめたら何が起きるかというシミュレーション,パニック小説である。そのかわり登場人物の印象は薄い。今や父親の無念を晴らすのは娘たちの仕事になったらしい。

[索引]