ネルソン・デミル『王者のゲ−ム』
B−
Demille, Nelson. The Lion's Game. 白石朗訳.東京,講談社,2001.上下,(講談社文庫)

 アラブ人テロリストが主人公である。冒頭で大量殺人があることなどを思い合わせれば,2001年9月の事件を思い出させるが,もちろんそれ以前に書かれており,テロリストはカダフィの元で訓練されたリビア人である。1986年に行われた米軍のリビア空爆の復讐のためにアメリカにやってきた30歳の男が,空爆関係者達を次々に殺害していく。これを狩るのは,『プラムアイランド』と同じくニューヨーク市警の警官だったジョン・コーリーであり,現在は,FBI,CIAとのチームの一員である。コーリーの冗談と皮肉の鋭さは評価できるが,この小説は,評価できない。まず,リビアのテロリストが追いつめられるのは,ほぼ使命を果たしてからであるに過ぎない。延々と同じ様な非情な殺人場面が繰り返される。それまでコーリーらは,会議と足の引っ張りあいをしているに過ぎない。両者の対決がクライマックスになるはずであるが,肩透かしに終わる。それにこのテロリストの「使命」自体,無意味である。直接に手を下したものたちに復讐しても,それが公表されない限り意図がわからないはずである。また,ペーパーバック版を厚くするための繰り返し,不用な書き込みが多すぎる。
 今のアメリカなら,こうしたことが起こればあっさりリビアを空爆するだろうから,これはもう成り立たない話である。
 

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