スティーヴン・キング『ランゴリアーズ』
King, Stephen. Four Past Midnight. 1990. 小尾芙佐訳,文藝春秋,1996. p.15-265

 『四つの深夜』という中編集の第一話である。『恐怖の四季』と同じく,4編の中編からなり,日本では2冊になる。ロスアンジェルス空港を飛び立ったボストン行の夜行便で,出発時に眠っていた乗客8名ほどが目ざめると,他の乗客と乗務員が消え去っていた。気持の悪いことに,消えた乗客の身につけていた金属は,時計からペースメーカーまで座席に残っているという状況から始まる。何が起きたのかについては,残った乗客自らが,「発見的」に明らかにしていく。バンゴアの空港まで行き,そこからまた,ロスアンジェルスまで戻ってくる。最初の謎から強引に物語が組み立てられていく。ハッピーエンドであるが,キングは『クージョ』に続き,普通の作家はしないことを平気でしてしまう。ランゴリアーズというのは,スケールの大きな怪物である。それぞれはビーチボールのような形をしていて,クチャクチャという音をたてて転がってくる。その後には黒い溝が残る。「走りながら食い,この世界を古いカーペットのように細く切り裂き巻きとりながら走ってくる」。「彼らは永遠の虚無を掘り起こしている」のだ。飛行機から見下ろすアメリカ大陸がランゴリアーズに食い荒らされていく光景の描写は,美しい。実のところ,物語とランゴリアーズはほとんど関係ない。しかし,キングはすごい。

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