ブリジット・オベール『森の死神』
B+
Aubert, Brigitte, La Mort des Bois. 1996.香川由利子訳,早川書房,1997. 402p.(ハヤカワ文庫)

 主人公エリーズ・アンドリオリはフランスはイヴリーヌ県の新郊外都市に住む36歳で,アイルランドで爆弾テロに遭って全身麻痺で目が見えず,口もきけない状態である。ただ,耳は正常である。看護人イヴェットに連れられて車椅子でスーパーに行った時,少女から話しかけられる。この地域で起きている連続少年殺害事件の犯人のことである。エリーズは,人差し指を立てることができ,ようやく意思を示せるようになる。この少女の両親やその友達と徐々に親しくなっていくが,その間にも殺人は続く。犯人は身近にいるらしい。みなが口のきけないエリーズに話をするので,事情通になり,必死で推理をする。この主人公の視点だけで物語は進んで行くが,全体の2/3ほどまでは,サスペンスフルで一挙に読ませる。エリーズが身体はままならないものの陽気で勝ち気であって,快調に進んでいく。だが,オベールの他の作品同様,終盤が荒っぽい。一応は意外な結末であるが,無理が多い。それに,少女の行動についても説明がないのが残念である。

[索引]