貴志祐介『黒い家』
角川書店,1997. 365p.

 主人公若槻慎二は28歳,大手保険会社の京都支社で死亡保険金の査定を担当している。京都の大学を出ており,趣味は昆虫の観察である。保険金を騙し取ろう,脅し取ろうとする契約者,モラルリスクへの対処が仕事である。ある日,契約者から自宅に来て欲しいと電話がかかってきた。京福電鉄嵐山線の嵯峨駅前近くのその家は,真っ黒で無気味な家だった。そこで,父親とともに子供の首吊りの死体お第一発見者にさせられる。やがて,その親は保険金を払うよう執拗に迫り始めるが,どこかおかしい。怖い部分は後半にあるが,超自然現象によるものではない。それよりも,精神医学的解釈が優先されている。保険金殺人には,計画性と用心深さが必要とされるとしながらも,犯人が無差別に殺人を重ねるところが符合しない。興味深い点があるとすれば,保険会社からみた保険金詐欺事情と主人公が出かける時のその経路の微細な記述があるというところである。 

[索引]