梅原克文『カムナビ』
角川書店,1999. 上下

 主人公は,歴史学の大学講師である葦原志津夫,30歳である。失踪した父の行方を追ううちに,異変に出会うところからはじまる。舞台は,筑波,甲府,長野岐阜県境,名古屋,そして奈良へと移動していく。壮大なほら話であるとともに,怪物の登場するホラー仕立てとなっている。縄文文化から古代,邪馬台国のありか,蛇神信仰,アメダス,ボイジャーと道具立ては多彩である。こういう話であるから登場人物に生彩がなく,描写が単調で,会話もほとんど説明調であっても仕方のないところである。しかしながら,結末に向かって緊張が高まるというわけでもない。少なくとも前半の筑波と甲府の部分は,なくてもよいと思われる。たいていの怪物は,主人公と戦う間に小物になっていくが,この場合も例外ではなく,登場時間も少なく,また少しも恐ろしくない。邪馬台国と大和朝廷との関係の解釈もさほど興味をそそるものではない。カムナビは,「神奈備」で「神のいらっしゃる場所」であり,ここでは,天から降ってくる光のことらしいが,その実物になじみがないので,謎解きをされてもさほど感心しない。主人公が巨大な「生物」に乗り移り,別の「生物」と戦うという展開を予想したが,そこまでは行かなかった。

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