東野圭吾『片想い』
文藝春秋,2001.379p.

 トランスジェンダーについて学ぶのには最適である。主人公の西脇哲朗は,大学時代にアメリカンフットボール部のクォーターバックだった。現在は35歳のスポーツライターである。久しぶりに会った部の女性マネージャーだった日浦美月が,自分は殺人事件の犯人であり,男だというところから始まる。捜査の進み具合を調べるために事件の関係者に会っていく間に,多くの性同一性障害の人々の話をきき,この問題に踏み込んでいく。解決のための様々な方法が違法行為を含めて示される。その回答は,登場人物の一人が言う「性同一性障害という病気は存在しません。治療すべきは,少数派を排除しようとする社会のほうなんです」ということと,男女の差は,ディスクリートではなく,連続状態にあるということである。事件のほうも趣向はこらしてあり,かつての部員の友情で解決をみるが,ミステリとしての興趣は乏しい。

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