赤井三尋『翳りゆく夏』
A−
講談社,2003,335p.

 20年前に起きた誘拐事件を閑職に追いやられていた新聞記者が掘り起こす話である。ある週刊誌が「誘拐犯の娘を記者にする大東西の『公正と良識』」という記事を載せたので,東西新聞社では,社主と社長の命令で内定した女子学生を守ろうとする一方,もう一度,この事件の調査を行うことにした。しかし,犯人は身代金を持ったまま自動車事故で死んでいるので,新しい事実が出てくるとは思われなかった。それでも,関係者に聞き回っているうちに,当時はさほど気にされなかったいくつかの謎が浮かんできた。
 誘拐事件の意外な真相の組立はかなりしっかりしている。淡々と堅実な語り方であるとともに,舞台となる横須賀をはじめとして十分な取材がなされていることがよくわかる。何よりも気持ちよく読めるのは,平凡な人物であっても登場人物一人一人を著者が敬意を払って描いているからである。善人ばかりのように見えるが,ずっと現実に近い感じを与えてくれる。他のミステリがいかに粗っぽいかがよくわかる。googleで探すというのも面白い。

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