佐藤正午『ジャンプ』
光文社,2000. 309p.

 主人公は,年齢はおそらく30代前半の宣伝部に勤める男である。羽田からの出張前に付き合っている女性のアパートに泊まろうとしたところ,リンゴを買いに出かけたその女性は失踪してしまった。出張から戻って,その足跡を辿ると少しばかりその後の行動がわかった。でも,彼女は結局,姿を消してしまった。5年後,偶然に再会してその事情をきいた。という話である。この『ジャンプ』は,『本の雑誌』のベストテンでは1位,『週刊文春』でも7位となっている。『本の雑誌』では,「帯の惹句が『自分で自分の人生を選び取ったという実感はありますか?』っていうんだよ。すごくいいよね」,『週刊文春』では,「ラストシーンの衝撃は,主人公ばかりでなく,読者の心臓をも貫かずにはおかない」,「久しぶりに巧妙で,それでいて壮大な物語を読み終えた。という気分にひたらせる作品。伏線の張り方が巧い」といった感想が並んでいる。「ラストシーンの衝撃」というものが本当にあったのかと思わず読み返したが,衝撃を受けるようなことは何もなかった。また,これが「自分の人生を選び取る」ということにどのように関係してるのかもわからない。平凡な男女にちょっとした行き違いを起こさせてみただけである。主人公は多少いい加減なところはあるにしても「普通」というカテゴリに入りきる程度である。ストーリーはのろのろと進み,ユーモアも不発であり,魅力的な人間は一人もおらず退屈。

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