十兵衛両断
荒山徹,新潮社,2003,365p.

 柳生家と朝鮮のかかわりをテーマとした短編集である。冒頭の『十兵衛両断』と最後の『剣法正宗遡源』は呼応している。時代は,文禄ノ役から徳川初期までの約60年間で登場するのは柳生宗矩,父の宗巌,子の十兵衛,宗冬,弟の巌勝らである。しかし,本当に強いのは別の連中であって,世俗的な宗矩が終始虚仮にされ,恵まれない若い剣士たちが活躍するのがよい。
 読み始めてたちまち引き込まれ,最後まで一気に読んでしまった。何度も読み返した。大きな事件や人物像は史実そのままであり,朝鮮史の勉強もできる。しかし,とんでもない妖術と凄まじい斬り合いからなる想像力豊かな伝奇小説となっている。主な登場人物はみな一筋縄ではいかないし,その行動にはそれぞれ深い意味を持たせられている。読むうちに誰しも思い浮かべるのは山田風太郎であろう。山田風太郎は,柳生十兵衛を二度死なせたが,荒山徹の柳生十兵衛は三度死ぬことになる。山田風太郎亡き後で,最も期待される時代作家である。

[索引]