高嶋哲夫『イントゥルーダー』
B+
文藝春秋,1999. 322p.

 羽島浩司は,日本のスティーブ・ジョブス,ビル・ゲイツと呼ばれる新興コンピュータメーカーの副社長で,研究開発部長46歳である。スーパーコンピュータの開発に追われるある日,大学時代に付き合っていてその後音信のなかった女性から「あなたの息子が重体です」という電話がかかってくる。新宿で車にはねられたらしい。病院で意識不明のままの息子を眺めるシーンからその後の展開までゴダード『日輪の果て』とよく似ているが,主人公は10歳ほど若く,こちらはエリートである。
 全体の2/3ほどまでは一気に読むことができる。息子がどのような人間であったか知りたいと思うが,母親,大学時代の友達,勤務先のソフトウェア会社の上司,それに事件をあつかう刑事らの話が指し示す像は矛盾している。この辺りまでの主人公の行動は説得力がある。しかし,いわば息子の仇討ちのようなことになっていくと,徒手空拳でぼろぼろになりながら巨悪に迫っていくという普通の日本のハードボイルドものになり,どんどん暴力的になっていき,センチメンタリズムが混じり合う。細部に納得できない点がいくつかあるが,それよりも最後の2ページが何故あるのかわからない。

[索引]