ロバート・ゴダード『蒼穹のかなたへ』
B−
Goddard, Robert. Into the Blue. 1990. 加地美和子訳. 文藝春秋, 1977. (文春文庫) 上下

 イギリスで職を追われ,友人である国会議員アラン・ダイサードのロードス島の別荘の管理人を十数年もしている人生の敗残者と思いこんでいる53歳のハリー・バーネットがその別荘に滞在中に行方不明になったヘザー・マレンダーを必死に探すというのが物語の骨格である。わずかな手がかりをもとにイギリスに戻ったハリーは過去の出来事を暴いていく。ヘザーの行方を突き止めるのは全体の3/4ほどであり,結局は,予想通り,この物語の主人公がダイサードであることがわかる。真相を知りたいという欲求のもと,最後まで読み続けさせられるのは,ゴダードの他の作品と同じである。登場人物が丁寧に描かれていること,真相というのがそう単純なものではないことなど,小説としてよくできている。ただ,『千尋の闇』などこれまでのものほどのできではない。

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