スティーヴン・ホーン『確信犯』
Horn, Stephen. In her Defense. 遠藤宏昭訳.東京,早川書房.2001.上下.(ハヤカワ文庫)

 主人公のフランク・オコーネルは,ワシントンに住む三十代半ばの弁護士である。妻と息子がいて,義父は尊敬される弁護士であり,順調だったが,ある時,一人立ちをしたいと全てを投げ捨ててしまって,小さな刑事事件ばかりを扱っている。ところが,たまたま出会った,殺人の容疑者となった社交界の花形アシュレー・ブロンソンから弁護を依頼される。裁判では強力な目撃者がおり,勝ち目は薄い。フランクは,私立探偵らを雇い,検察の証拠を覆していく。一方,その間に,アシュレーとの仲は深まっていく。このあたりまでは,快調である。ところが,事件は妙な広がりをみせ,背後に大がかりな陰謀があることがわかってくるあたりから,法廷ミステリとしての興味は殺がれていく。こうした展開もあってよいだろうが,辛辣で皮肉な筆致で,自信をなくした弁護士と孤独で美貌のセレブリティが残された短い時間を必死に生きていく様子を描いていたのは一体何だったのかと思わせられてしまうのは残念なことである。その陰謀というのがまた古くさく,冷戦が終わって十年も経つとインパクトも薄い。

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