梨木香歩『家守綺譚』
新潮社,2004,155p.

 ファンタジーである。失踪した友人の親から家守として住んで欲しいと頼まれた物書きの男が,一年を過ごす連作短編集である。家のあるのは,琵琶湖からの疎水の近辺で,歩いて石山寺に行ったりするので,山科のあたりだろうと思うが,京都の白川かもしれない。疎水からの水が,家の池に注ぎ込み,河童や人魚が流れ着く。あるいは龍もくれば,子鬼も現れる。いずれも何か自分の事情があり,男には目もくれない。また,狸に何度も騙される。主人公が,気にしているのは,池のほとりの老いたサルスベリの木であり,やはり何か事情のありそうな飼い犬のゴローである。初夏から始まり,夏,秋,そして雪の日々と四季が綴られ,桜の季節で終わる。文人の隠遁生活であるが,時々現れる竹生島の近くに入水した友人のあの世への誘いに乗るわけではない。
 久方ぶりに清々しい小説を読んだ。傑作である。

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