ランキン・デイヴィス『デッドリミット』
B+
Davis, Rankin. Hung Jury. 白石朗訳.文藝春秋,2001.498p. (文春文庫)

 英国が舞台の法廷サスペンスである。ある研究所で研究者が殺害された。射殺する場面のビデオもある。被告の女性研究者に対する検察,弁護側の弁論が終わり,陪審の審議に入った時に,訴追にあたっていた「法務総裁」が環境テロリストによって誘拐された。彼は英国首相の兄である。そして誘拐犯からとんでもない要求がきて,首相は,徹夜で弁護士である妻と事件の調査を行うことになる。導入部分はよくできていて,話の展開がわからず期待を持たせる。
 誘拐犯側,首相側,それに陪審員の討議の三つが並行して語られていく。陪審の討議でどうなるかは,女性が含まれるものの「十二人の怒れる男」と同じである。この部分にある欺瞞があるので仕方がないのだが,冗長である。首相側は短時間で事件を解決し,誘拐犯側はどういうわけかどじを踏む。
 どのように期待を裏切るのかと言えば,犯人に意外性が乏しいこと,比較的重要な登場人物3人がそれぞれ持病を抱えていて,何人かが都合良く始末されてしまうこと,付随して起きた重大事件に首相が少しも関心を持たないこと,さらには陪審員の素性をさらすという悪趣味を平気でなすこと,などである。
 

[索引]