マイケル・フレイン『墜落のある風景』
Frayn, Michael. Headlong. 山本やよい訳. 東京,東京創元社,2001.315p.(創元推理文庫)

 主人公は,ノミナリズムを専門とする哲学者であり,研究休暇中である。美術史家である妻と娘とともにロンドンを離れ別荘にきている。現在,美術哲学というより図像解釈学に関心を持ちはじめた。近くに住む男から招待を受け,家に行くルカ・ジョルダーノの絵を見せられ価格を査定してほしいと頼まれる。この家には他にも絵があった。煤よけに使われている1枚は,どうやらブリューゲルの失われた月暦画ではないか。妻にも秘密にしてロンドンに出かけて,ロンドン図書館,ヴィクトリア&アルバート美術館の図書館,ウィット図書館で,ブリューゲルと16世紀オランダについて調べ始める。
 本当は,面白くなるはずなのであるが,主人公の性格がよくない。明らかに主人公より優秀でよくできた妻を含めて,周りの人間を踏みつけながら他人の絵を騙し取ろうとする。勝手な思いこみばかりしているので,主人公が調べ上げるブリューゲルの絵の解釈も思いつきに過ぎないように思われる。これでは,ノミナリズムや図像解釈学を馬鹿にしているとしか思えない。作者が主人公を嫌っているようなので,読むほどに不快になる。

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