池井戸潤『果つる底なき』
B−
講談社,1998. 324p.

 主人公伊木は,都銀の東京渋谷支店の融資課課長代理で三十代半ばの独身である。融資課の同僚が外回りの途中の車の中で死んだ。その同僚の死因がはっきりせず,公金を横領していた疑いが出てくる。伊木は遺されたファイルから,彼がある倒産時件を調査していたことを知り,自分でその調査を受け継いでいく。話の展開はスピーディで最後まで謎は残り,飽きさせない。都銀の支店の仕事,仕組み,人間関係,融資や倒産などが生々しく語られる。あまり奥行きがない,無闇に人が死ぬ,銀行員がみな同じように見える,こうしたミステリの付き物のおきまりのような暴力沙汰が最後にあるといった点は気になるが,実力は十分ある。江戸川乱歩賞の受賞作で,作者は元三菱銀行員である。主人公の上司にとても嫌なやつがいて,これが散々な目に遭わされるが,おそらくモデルがいるのだろう。

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