横山秀夫『半落ち』
B+
講談社,2002.297p.

 『このミステリがすごい!』2003年版の第1位だった。ある県の警察の幹部である梶警部,約50歳が妻を殺害して自首してきた。県警にとってはスキャンダルである。しかし妻はアルツハイマー病であり,嘱託殺人であると考えられた。ただ,殺害後,自首するまでの二日間の行動がわからない。本人には話す気は全くない。警察官,検事,新聞記者,弁護士,判事と,章ごとに主人公を代えて,一体,何があったのか,なぜ梶警部は澄んだ目をしているのかを探っていく。
 警察対検察をはじめとする法曹界にもたれあいといがみあいがあり,どこも組織防衛第一である。また,それぞれの職場の中でもたたき上げと中途参入者,あるいはエリートと非エリートの対立がある。梶警部を気遣うのは,警察ではたたきあげ,検察では東京地検から転任してきたエリート検索官であるといったようにそれぞれの登場人物は,立場が違っているので奥行きがある。結末まで一気に読まざるを得ない。意地と誇りでぼろぼろになっていく主人公ばかりだった日本のミステリに,これまでにない価値観を導入しているのであるが,「そういうことか」と思ってしまうことも確かである。

[索引]