スティーヴン・キング『グリーンマイル』
King, Stephen. The Green Mile. 白石朗訳. 東京,新潮社,1997. (新潮文庫) 6冊.

 この『グリーンマイル』は,6冊の分冊逐次刊行が目玉なのであるが,刊行が終わってからまとめて読んだ。もちろんこれはアメリカでは新機軸なのだろうが,日本では,第5巻の解説で中島梓が述べているように最初から文庫本で分冊で刊行されるものは数多い。第1巻は,何が起こるのかよくわからないほのめかしばかりであるが,第2巻から第6巻までは,あっという間だった。舞台は,アメリカ南部の州刑務所の死刑囚の収容施設で,時は,1932年で語り手のポール・エッジコムはその主任で40歳,もう数十回の電気椅子での死刑執行に立ち会ってきた。この話の出来事のほとんどは,3回の死刑執行の間で起きる。その一つが怖い。しかし,だからといってもちろん単なるホラーではない。本当に恐ろしいのは,そのことではない。殺人の犯人探しもあるが,ミステリーではない。この物語の主人公は,エッジコムではなく,死刑囚房にやってきたジョン・コーフィという身長が2メートルを超える黒人の死刑囚である。この男がどこからやってきたのかは謎のままである。善と悪どころか,邪悪な精神と聖なるものが混ざり合い,わずかな動作,一つ一つの言葉が深い意味を持ち,フォークナーか石川淳かという世界となる。そして,結末にもトリックが用意されている。

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