東野圭吾『ゲームの名は誘拐』
光文社,2002,301p.

 主人公は,三十歳過ぎの中堅広告会社の社員である。仕事の上で恨みのある自動車会社副社長の娘を偶然に保護することになり,誘拐に仕立てて,身代金を取ることを思いつく。誘拐自体の成否とともに,相手との知恵比べが始まる。
 「誘拐をゲーム感覚で」という趣向であるが,この話の中心は,誘拐において犯人と家族の相互の連絡に,最近のどのような機器を使うのかと,犯人が身代金をどのようにして受けとるかである。犯人は,FAX,使い捨てのメールアドレス,使い捨ての携帯電話などの他に,インターネットの掲示板を使う。掲示板に被害者側に書き込ませるのであるが,その文面は,五十代の男が考えたものとするなら実に面白い。犯人はよく頭を使って,警察の捜査を妨げようとするが,実は,この点では肩透かしをくらうことになっている。終盤の頭だけで考えたアクロバッティングな展開や謎解きよりも,警察を含めた誘拐のプロセスをストレートに描いたほうがよかったのではないかと思われる。

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