クライブ・カッスラー『暴虐の奔流を止めろ』
A−
Cussler, Clive. Flood Tide. 中山善之訳. 新潮社,1998. (新潮文庫) 上下

 難点があるとすれば,翻訳書名と解説であろう。こんなタイトルの本は電車の中では読めない。解説には無神経にも全編の要約がある。本造りには疑問だらけであるが,中味は,シリーズの中でも屈指の出来である。今度は,中国の海運王との対決である。一代で有り余る資産を築いたチン・シャンは,一方では,米国の貿易港の支配を画策し,一方では米国に中国人移民を密かに送りこんでいる。大統領は,チンから政治資金を受けており,すっかり取り込まれている。米国には,メキシコ人と中国人の流入により,50年後には,南部と西部が独立分離するのではないかと心配している人々がいるようである。チン・シャンは壮大な計画を持っているのであるが,米国側はなかなかそれに気付かず。ダーク・ピットらは,休むことことなく,ただただ局所的な問題に対処するために働かせられる。驚くほどアクションシーンが多く,カーチェイスも含めて,大部分は水の上か中で行われる。モーターボート対ウルトラライト機,老朽船対中国の新鋭駆逐艦などを経て,巨大客船対戦車という対決に至る。そしてようやく「暴虐の奔流」なるものの意味がわかることになる。そして通例の失われた宝物を意外な場所で発見するというエピローグがある。

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