ダン・シモンズ『エデンの炎』
Simmons, Dan. Fires of Eden. 1994. 嶋田洋一訳. 角川書店,1998. (角川文庫) 上下

 読者へのサービスに徹した,うまく作られたホラーである。舞台は,最近,評判のハワイ島である。三つの話が並行して語られる。一つは1866年にこの島にきたマーク・トウェインとロレーナ・スチュワートという気丈な若い女が遭遇する不思議であり,もう一つは,そのロレーナの遠縁にあたり,ロレーナの手記を持ってハワイ島のリゾートに向かう,18世紀啓蒙思想を大学で教えている主人公のエレノア・ベリーと島にきて知り合ったおばさんのコーディ・スタンフの出くわす怪奇,それに,このリゾートを日本人に売りつけてなんとか窮境から抜けだそうとするバイロン・トランフの話である。これらが,キラウェアとマウナロア火山の噴火とハワイの伝承に登場する女神と地下世界の魑魅魍魎がからまりあい,130年前と同じ地下世界行が意外な組み合わせで実現される。登場人物は個性的であり,女性は肝が据わっており,トランフも単純な悪玉ではない。日本人の名前は正確であり,溶岩流からホテルで供される食事まで描写は微細にわたる。火山の噴火というスペクタクルから恐ろしい怪物どもやハワイ解放戦線まで盛り沢山であるが軽口も忘れていない。

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