リンダ・フェアスタイン『誤殺』
A−
Fairstein, Linda.Final Jeopardy.平井イサク訳.早川書房,2002.527p.(ハヤカワ文庫)

 主人公は,ニューヨーク検察局の性犯罪課の女性課長アレクサンドラ(アレックス)・クーパー34歳である。お金持ちで美人で独身であり,ボストンから近いマーサス・ヴィニヤード島に別荘を持っている。この別荘を友人のハリウッド女優に貸したが,この女優がライフルで撃たれ頭を吹っ飛ばされて死んでしまった。体つきが似ていたので,自分と誤って殺されたのかもしれないと激しいショックを受ける。ニューヨーク市警からマークという友人が護衛につく。捜査の参考人としてマークとともに島に行く。地元の警察とFBIが捜査を行っている。どうやら,被害者は,一人ではなく男と一緒にいたらしい。事件の捜査はなかなか進まない。
 このミステリが面白いのは,事件が起きてから解決するまでの10日間余りの主人公の仕事と個人生活まで事細かに描写しているからである。買い物好きで料理の嫌いなアレックスが三食ごとに何を食べるのか,何を着るのかから,自宅から仕事場までタクシーに乗るのか地下鉄なのかまでわかる。タフで有能の女性検事の仕事の内容,秘書の使い方,検事局内のポリテックスなど実に興味深い。さらに,ニューヨークで起きる様々な気分の悪くなるような性犯罪も紹介される。殺人事件についてはいかにも犯人らしい人物は途中で除かれ,意外な人物が主人公に襲いかかることになる。アレックスはバレーを習っているが,鍛えた技で倒すのかと思ったらそうではなかった。主人公とその周りの人物がいささか美化されすぎているだろうし,ミステリとしての出来はそれほどでもないが,ともかく楽しめる。

[索引]