リチャード・ノース・パタースン『子供の眼』
Patterson, Richard North. Eyes of a Child. 東江一紀訳. 新潮社,2000. 606p.

 主人公は,前作『罪の段階』に続いてサンフランシスコに住む47歳の弁護士クリストファー・バジェットである。しかしながら,実際には,その下で働く女性弁護士テリーザ・ベラルタともう一人の女性弁護士キャロライン・マスターズが主役である。バジェットが6歳の娘の監護権を夫であるリカード・エイリアスと争うのが発端である。しかし,このエイリアスはまことに不快な人物で,ベラルタばかりでなくバジェットまで大いに苦しめる。半分が過ぎるまで苛立たしい出来事ばかりで,ここでやめても仕方ないだろう。けれど,一転して法廷場面になると,途端に面白くなる。マスターズ弁護士は,検事が出してくる証人への巧みな反対尋問で,検察の主張を次々に覆しながら弁護をしていくが,ここがやはり最も生彩がある。ただ,裁判の決着がついても事件の真相は少しも明らかにならない。家庭内暴力や性的虐待の連鎖という縦糸と親子の葛藤という横糸を絡ませて重厚なミステリとなっている。ただ,少し長すぎる。

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