ジェフ・アボット『図書館の死体』
Abbott, Jeff. Do Unto Others. 1994.佐藤耕士訳. 早川書房,1997,398p.(ミステリアス・プレス)

 主人公は図書館長である。ボストンで出版社に勤めていた,歳は三十前後で身長は188センチほどのジョーダン・ポティートは,母親がアルツハイマーになったので,仕事を辞め,故郷のテキサス中部,オーステインの近くのミラボーに帰り,図書館に勤め,行きがかりで図書館長になる。ロレンスの『恋する女たち』は猥褻であるから蔵書からはずせとポティートにくってかかった四十過ぎの常連女性が,この図書館で,深夜,バットで殴られて死んでいた。死体発見者であり,動機があり,アリバイのない主人公は,頭の悪い検事から疑われ,被害者の持っていたメモをもとに勝手に捜査を開始する。前半の捜査の部分は,登場人物だけが多く,退屈である。ところがやかましいだけと思われていた被害者が,何をしていたかがわかるにつれて,意外な事実が判明していく。見かけよりも,複雑な話であるが,読み終えてみると,冒頭の,図書館内で,被害者が主人公にからむ場面が理解しがたくなる。頭の中に湧いてくるのは,(1)テキサスの小さな町にしては,悪事を働く人の割合が多いようであるが,どこでもこんなに酷いのか,(2)悪いのが一方の性に集中しているのではないか,(3)アメリカの小さな公共図書館では,目録はどうなっているのか,(4)この本がアメリカで賞をいくつかとっているのはどうしてなのか,といった疑問である。

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