エリザベス・フェラーズ『猿来たりなば』
B−
Ferrars, Elizabeth. Don't Monkey with Murder. 1942. 中村有希訳. 東京創元社,1998. 309p. (創元推理文庫)

 『99年版 このミステリーがすごい!』海外編第4位である。昨年の『赤い手』同様,パズラーの古典を好む一群の人々がいるらしい。作者は,48編ものシリーズ探偵なしのミステリを書いた英国の女流作家。時代は,50年以上前,場所は英国南部ののどかな村である。主人公で探偵役である犯罪ジャーナリストのトビー・ダイクは,手紙で誘拐事件の解決を頼まれてやってくるが,誘拐されたのは猿二匹であった。しかし,その一匹は殺されていたので,犯人を探すことになる。というわけで,本当の事件は何であるのかはわからないまま,探偵が全員を集める場面に至る。登場人物が多くて,しかもたいした事件ではないので,途中で止めたくなる。最後まで読めば,いろいろ伏線が張られていることがわかり,謎解きもある。しかし,一番面白いのは,主人公と助手の関係であって,要領よくこの作品の特色を説明している解説(森英俊)にあるようにホームズ,ワトソンのひねりであり,単純な事件を探偵役が複雑にしているといったメタ・ミステリ的なところに特徴があるらしい。

[索引]