柴田よしき『月神(ダイアナ)の浅き夢』
角川書店,1998.398p.

 主人公村上緑子(りこ)は,警視庁の警部補で,夫も警察官で子供がいる。これが3作目なので,前の2作を読んでいなければ,最初の部分は事情がわからないもどかしさが多少あるが,連続警察官殺人事件を担当する緑子と坂上が捜査を進めていく部分は快調である。かなり偶然が入り混じること,メールアドレスなどの手がかりに無関心であること,そして,どういうわけか女性への暴力を平然と繰り返すこと,「結局,人並みの幸せ,普通の結婚生活を求め始めた時から,あたしは逃げることを選び出したのだ」(p.58)といった文章があることなど,がっかりさせる点は多い。また,犯人と犯行の動機にも疑問が残る。このミステリの魅力は本来は主人公の緑子にあるはずなのであるが,むしろその敵である山内という男の無気味さと不思議さにある。ただ,この男の描かれ方はまるで全てを見通す神のようである。

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