ティム・クラベ『洞窟』
De Grot.Krabbe, Tim.西村由美訳.アーティスト・ハウス,2002.299p.

 主人公は,43歳のオランダ人地質学者エイホンである。カンボジアに似た東南アジアの国ラタネキリの首都ラタナックのある場所に麻薬を運んできたが,夜中に引き渡すことになっている。これは金を手に入れるためである。ホリディ・インに泊まり,町を見物して時間をつぶし,レンタカーを借り,夜中の待ち合わせに備えている。この国では既にオランダ人が麻薬を所持して捕まり死刑になっている。待ち合わせは実現した。その後は,エイホンの14歳の時の夏のキャンプの話になる。ここで,エイホンは,その後の人生を狂わされることになるアクセルという少年と出会う。別の挿話が二つあり,最後に最初の事件の意味がわかる。  物語の構成が美しいというのが,この本について多くの書評で言われていることであるが,現在の事件,いくつかの過去,事件後,また過去を組み合わせて主人公の辿ってきた道がわかるようになっていることは確かである。ただ,技巧をこらしていると言うほどでもない。悪と純愛が入り混じった話になっているというよりもただのメロドラマに近い。また,原文と訳文とは文体の点で違いがあるのだろう。オランダ語ではどのような印象になるのかわからないが,ラタナックの描き方が気になる。どこか見下げた態度のようである。この事件が何故,東南アジアの国で起こるのかがわからない。作者はこの本に出てくるウェストモーランド将軍と同じではないのか。

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