チャールズ・ウイリアム『絶海の訪問者』
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Williams, Charles. Dead Calm. 矢口誠訳,東京,扶桑社,2000.370p.扶桑社ミステリー

 パナマを出て太平洋をタヒチに向かうヨットに44歳のジョン・イングラムと,結婚したばかりのその妻レイが乗っている。定期船の航路ではない場所で,凪で往生していた。そこに,別のヨットが出現,若い男がボートで乗り移ってくる。その男の話では,同乗者が3人いたが,食中毒でみな死んでしまい,ヨットは浸水して沈みかけているとのことだった。しばらくするうちにジョンはこの男に疑いを持ち始める。そして,彼の乗っていたヨットを調べたくなる。1961年の作品で,これを読んだオーソン・ウェルズがすぐに脚本を書き,ローレンス・ハーヴェイ,ジャンヌ・モロー主演で映画化を試み,10年ほど前にオーストラリアで映画になった。絶海とはいえ平穏に過ごした夫婦のところに正体不明の男が闖入し,タイムリミットのある生死をかけたドラマが起きるのであるから映画にもしやすい。しかし,意外に起伏は乏しく,多くは心理分析に費やされていて退屈である。いかにも40年前の小説らしい。現代作家がこの設定を使うなら,もっとスピーディで波乱のあるドラマにしただろう。

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