リチャード・ノース・パターソン『ダーク・レディ』
B+
atterson, Richard North.Dark Lady.東江一紀訳.新潮社,2004,新潮文庫(上下)

 舞台は,米国中西部の都市スティールトンである。その名の通り,製鉄所を中心として発展してきた。現在,この町のプロ野球団の本拠地であるスタジアムの建設が進んでいる。製鉄所の所有者がピーター・ホール,この町のギャング組織のボスがヴィンセント・ネロである。まもなく市長選挙があり,これに郡検事の黒人のアーサー・ブライトが,スタジアム建設反対を叫んで現職に挑戦している。このブライトの部下が主人公の検察局殺人課課長のステラ・マーズ38歳である。スティールトンのポーランド地区で育ったステラは,ジャック・ノヴァックの事務所で助手を勤め,また愛人だった。その後,ロースクールに通い,法曹界に入り,現在の地位を得た。
 そのジャック・ノヴァックが惨殺された。そしてスタジアム建設の中心人物だった男も不審な形で死んだ。ステラは,捜査を始めるが,同時に市長選を助けなければならず,ブライトが市長に選ばれれば,その後釜に座ることもできるが,ライバルもいる。  全体に暗く,猟奇的な殺人が続くし,ステラの自宅にも侵入者がある。殺人事件の犯人自体は意外でもないが,驚く出来事がある。手がかりは少しもなく,ステラの陰鬱な過去の話が繰り返される前半から中盤は退屈であるが,糸口が見付かると,急速に事態は進展していく。結局は,ミステリというより,町の権力構造の中で,女性検事がどのように倫理的にふるまうかが中心である。

[索引]