誰か
B−
実業之日本社,2003,579p

 自転車による事故と過去の誘拐劇の真相を明らかにするというミステリである。語り手は,大会社の会長の娘と結婚して,関連会社向けのPR誌の編集部に勤めている杉村三郎である。義父から個人運転手をしていた梶田という男が自転車事故で亡くなったので,その娘の聡美と梨子の相談にのってやってほしいと頼まれる。梨子は,父の伝記を出版したいというが,姉の聡美は乗り気ではないようだった。聡美からは,4歳の時にあった自分が監禁された事件のことを告げられ,調べ始める,
 本題の自転車によるひき逃げは,犯人がわかるのだが,それについてはほとんど言及されず,もっぱら30年前に起きた現在にはほとんど影響のない事件の解明に費やされる。登場人物の多くは善意の人々で読みやすいが,宮部みゆき特有の後味の悪さがある。いくら語り手がお人好しでも不愉快で無礼な台詞をそのまま罰を与えないで小説を終えられてしまっては読者は困る。

[索引]