ロバート・ゴダード『閉じられた環』
B−
Godard, Robert. Closed Circle. 幸田敦子訳. 講談社,1999. (講談社文庫) 上下

 主人公ガイ・ホートンは30歳過ぎの小悪党である。時代は1930年代はじめ。相棒のマックスとニューヨークで詐欺行為を行っていたが,尾羽うち枯らして,船でイギリスに帰る途中である。ここで富豪の娘と出会い,マックスは彼女と婚約するまでになる。ところが殺人事件がおき,やがては大変な陰謀を知ることになり,組織に使われ,また追われる身となる。『日輪の果て』同様の陰謀の中身が重視され,しかも陰謀史観ものと言ってよい。主人公は,急に善人になったり詐欺師に戻ったりと忙しくて,その心理の揺れは理解できるものの,そう同情もできない存在である。薄汚さがいつまでもつきまとう。相変わらず構成は巧みであるが,主人公の影の薄さ,結末のやりきれなさで大幅に減点される。

[索引]