スティーヴン・レザー『チャイナマン』
A−
Leather, Stephen. The Chainaman. 1992. 田中昌太郎訳. 新潮社,1996. 467p. (新潮文庫)

 IRAの爆弾テロで殺された妻と娘の敵討ちに立ち上がるのがロンドンの小さな中華料理屋の店主「チャイナマン」である。警察でも新聞社でも相手にされないので,店を売り払い,犯人を探すために北アイルランドへ向かう。ところが,このおとなしいチャイナマンは,実はヴェトナムからの難民であり,ヴェトナム戦争の間に類い稀な技術を身につけた戦士だった。アメリカのヴェトナム帰還兵は,『ランボー』やポロックのように映画でも小説でもおなじみであるが,こちらは,それよりも遙かに過酷な過去を背負った男である。北アイルランドでIRAのリーダーの一人とどう交渉するのかを,チャイナマンの行動面からだけ描いていく。どこにでもある材料から爆弾を作りあげる。森の中で何日も気配を消して生きていく。『報復のコスト』と同じように,レザーはできるだけ類型的でない人物を登場させようとしている。

[索引]