ミシェル・クレプシ『首切り』
Chasseurs de Tetes, Crespy, Michel.山中芳美訳.早川書房,2002.450p.

 再就職活動ミステリである。フランスでも大勢の人々がリストラで職を追われているらしい。主人公は,30代の妻子のある経営コンサルタントであるが,失業中である。大手の就職斡旋会社で試験と面接を受け,ようやく研修を受ける段階まで達した。あと一息である。泊まりがけでフランスとイタリアの境の山中の湖の中の島にある研修施設に行くことになった。十数名が同時に研修兼試験を受け,成績上位者は一流企業に就職できることになっている。前半は記述試験であるが,後半は,企業経営ゲームで3組に分かれて競い合う。メンバーはそれぞれが役割を持ち,他の2社と競争する。主人公は一つの組のリーダーとなる。やがて,単なるゲームではすまなくなる。
 2001年度のフランス推理小説大賞の受賞作というのは本当だろうか。前半では,主人公が就職斡旋会社の試験の意図をどう解釈したかが延々と細かく綴られる。主人公が深読みをしすぎているのかどうかがわからないままであるが,合格したのだから正解だったのだろうと思うしかない。そして研修施設に舞台が移る。普通,予想するのは,この会社が,実は就職斡旋ではなくとんでもないことを考えていたという結末であるが,そうはならない。会社経営ゲームで,登場人物たちが,本来の目的を忘れて暴走しはじめるという展開なのだが,ミステリへの期待は一掃され,その代わりにバイオレンスでは,読んできた甲斐がない。

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