ロバート・ゴダード『永遠に去りぬ』
B+
Goddard, Robert. Borrowed Time. 伏見威蕃訳.東京創元社,2001.625p. (創元推理文庫)

 1990年7月半ば,イングランドからウェールズへと続くオファーズ・ダイクという遊歩道を歩いていた主人公ロビン・ティマリオットは,37歳でベルギーの欧州共同体事務局の高級官僚だった。長兄が亡くなり,クリケットのバットを作る同族会社に来るよう求められている。それを考えるための山歩きをしていたわけが,途中でたまたま会った40歳過ぎの美しい女性ルイーズと言葉を交わした。ところが,後にこの女性がその直後に殺されたことを知る。犯人は捕まり裁判となるが,ルイーズの娘達から会った時の模様を訊かれる。そうしたことから長兄の未亡人がルイーズの夫と結婚してしまい,一家との絆は深まる。裁判があり,暴露本が出て,テレビの番組があり,そのたびに主人公は自分の言動を反省しおろおろする。一方,会社経営の雲行きも怪しくなってくる。
 最初の部分の進行はのろく,主人公の無駄の多い行動が丹念に描かれているので,なかなか読み進めなかった。やがて真相がわかるのであるが,三重構造になっていた。十分などんでん返しがあり,さすがにプロットはよく考えられていることがわかる。主人公は,ゴダード特有の性格で,極めて誠実なのであるが,まわりのほとんど全ての人々から常に利用される人物である。こつこつと一人で捜査をし,他人に利用されていてもあまり怒らず,いつも自分を責める。事件の主要なできごとと主人公は無関係のままであって,ようやく最後になって直接に関与させて貰える。
 

[索引]