ジョン・ダニング『死の蔵書』
Dunning, John. Booked to die. 1992. 宮脇孝雄訳. 早川書房, 1995. 548p. (HM文庫)

  1996年の3月に読んだ。逗子の先にある湘南国際村の大学に行く横須賀線で読み始めたが,大船あたりでうんざりした。逗子駅で別な本を買おうと思ったが,バスの発車時間が迫っており,湘南国際村には本屋などないので,最後まで読まねばならなかった。コロラド州のデンバーで,古本の掘り出し屋が殺される。それを捜査する警官も古書マニアで,殴打事件で警察を辞めて自分も古本屋になってしまう。ポーの第一詩集である『タマレイン』は25万ドルであるとか,キングの『呪われた町』の初版は10ドルから1,000ドルまで値上がりするとかの古本についての蘊蓄が傾けられている。この部分と,キングやグラフトンはたいしたことがない,『エクソシスト』やトマス・ハリスはよいといったような「文学論」があるので「本好きにはこたえられない」という世評になる。しかしながら,ミステリとしては,進行はもたもたとしており,主人公と「宿敵」と称する男との対決,謎の女古本鑑定家との恋愛は子供じみている。作家の好みについてはおしつけがましい。さらに,古本の価格がわかっても少しも面白いとは思えない。「カビくさくない洒落たミステリ」「この本が面白くない『本好き』がいるだろうか」などと言う人々の気が知れない。『このミステリーがすごい1997』で,これと『敵手』と『蒲生邸事件』を入れていない人を探すのは骨が折れる。

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