グレッグ・アイルズ『ブラッククロス』
B+
Iles, Greg. Black Cross. 中津悠訳. 講談社,1998. (講談社文庫)

 第二次大戦のドイツの強制収容所をイギリスのコマンドが襲うという話である。毒ガス製造が新趣向で,日本人にはおなじみのサリン,タブンが登場する。ドイツが作った化学兵器実験のための収容所にアメリカからイギリスに留学したまま化学兵器の研究に携わるマコネルとドイツ系ユダヤ人で中東で戦ってきたスターンの二人が潜入し破壊工作をしようとする。チャーチルの命令でこの作戦を立案した将軍に騙されながら二人は,かなり無理の多い計画を実行しようとする。前半は準備段階で,後半はもっぱらアクションである。前半はもたもたしているし,後半は乱暴な展開となる。この作戦の意図は最後までよくわからない。これまでにナチ・ドイツに潜入するという多くの小説があるので,新味を出そうと,意外性を高め,盛り上げに腐心しているらしいのはよくわかる。ただ,過剰な部分が多すぎる。それに翻訳に疑問がある。

[索引]