イアン・ランキン『黒と青』
Rankin, Ian. Bkack and Blue. 1997. 早川書房,1998.538p.(ハヤカワミステリ)

 「ハヤカワ・ミステリ発刊45周年記念作品」である。ともかく長くて,登場人物が多いので,何度も前を確認しなければならないが,最後まで読み終わることのできる作品である。主人公ジョン・リーバスは,エディンバラの警察署で犯罪捜査にあたる一人暮らし50歳を過ぎた刑事である。中心は,エディンバラで殺された石油基地の労働者の捜査である。北海石油の町アバディーンからシェトランド諸島,洋上の石油プラットフォーム,それにスコットランドのもう一つの大都市グラスゴーを駆け回る。しかし,リーバス警部がかかえるのはこの事件だけではなく,1960年代に起きた未解決の連続女性絞殺事件とそれを模倣しておきた連続殺人事件,上司だった警察官の死によって起こる内部捜査,さらには警察内部の腐敗,部下の家庭事情などがあり,これらが入り組んだ状況にある。著者は,スコットランドの社会,北海石油の経済から環境問題までに言及しつつ,幾多のストレスの下で幾分,暴走気味に捜査を進める「おれは生きていないも同然だ」と思う五十男ともう一人の主人公であるバイブル・ジョンの心情と行動を緻密な構成で描いていく。前半でどうしてこの人物が出てくるのだろうと気付けば,それがバイブル・ジョンである。最後にはあっさりと全てに片が付く。あまり魅力的な人物が出てこないのが残念。

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