ダグラス・ケネディ『ビッグ・ピクチャー』
A−
Kennedy, Douglas. The Big Picture. 中川聖訳. 1998. 563p. (新潮文庫)

 主人公は,ニューヨークで遺産管理を専門とする38歳の年収30万ドルの弁護士である。二人の子供はかわいいが,小説家志望の妻とはうまくいっていないし,仕事にもさして魅力はない。まあ平穏に暮らしている。しかし,ある日,取り返しのつかない事件を引き起こしてしまう。これを,怯えながらも一人で冷静に処理し,その結果,図らずも一定の収入付きの完全な自由を手に入れる。こうして,別の人生をおくることになった中年男は,モンタナ州の小都市でかつての夢を果たすことになる。どのように展開するのか予想できはしないが,後味のよい結末がある。一人の人間の法的,肉体的な存在をどのように操作することができるかという観点からみてもよく考えられているし,また,小心な法律家が優れたカメラマンになっていく過程,成功が成功を生むプロセスも皮肉混じりに描かれる。

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