ロバート・ゴダード『惜別の賦』
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Goddard, R. Beyond recall. 越前敏弥訳. 東京,東京創元社,1999,512p. (創元推理文庫)

 『惜別の賦』の「賦」とは何であろうか。「赤壁賦」の「賦」なのか。イギリス,コンウォールが舞台で,現在(明日)は1990年代,主人公のクリス・ネイピアは1936年生まれであるから50歳代である。しかし,実際には,45歳で自動車の修理業を営んでいたころの1981年(今日)に起きたことが中心である。そして昨日とは1947年のことである。その昨日では,11歳のクリスはニッキー・ランヨンと仲良くしていた。クリスの大伯父ジョシュアはアラスカで巨万の富を得て戻り,かつてふられたニッキーの祖母と暮らしている。ネイピア家とランヨン家にはジョシュア大伯父の遺産を巡る反目があったが,ジョシュアは,タリーという男に殺されて,その共犯としてニッキーの父親が捕まり死刑となる。1981年にクリスに会いに来たニッキーは自殺してしまった。クリスは,今日,1947年の事件の真相を探っていくというわけである。冒頭部分は,登場人物が多く,また過去のいきさつと現在が入り乱れるので,とりつきにくい。しかし,中盤を過ぎ,謎が深まれば,ゴダードの本領発揮である。悪人がむやみに多い。

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