フレデリック・フォーサイス『アヴェンジャー』
A−
Forsyth, Frederick.Avenger.角川書店,2003.上下

 主人公は,51歳の弁護士デクスターである。ベトナム戦争で,ベトコンと暗黒の地下道で戦った経験を持っており,今も,トライアスロンで鍛錬を怠らない。デクスターは,現在「アベンジャー」という名で,仕事を請け負っている。一方,1995年に難民支援のボランティアを志してボスニアに渡ったアメリカ青年が,セルビア人ジリチの民兵に無惨に殺された。ミロシェビッチが失脚した後,大金を持ってジリチは,逃亡した。この青年の祖父のカナダの富豪であるが,その死亡の状況を執拗に調査し,「アベンジャー」に依頼してくる。
 高齢であるが,戦闘の経験豊富で,ずるがしこいデクスターが,ジリチの要塞化された本拠に乗り込むという冒険小説である。実は,9.11との関連があるが,それは,皮肉な味を付け加えるのに使われている。クライマックスは『ジャッカルの日』を思い出させるが,それよりも,電子的な手段ではなく,自然と生物を使っているジリチの本拠の防御手段が面白い。そしてベトナムでねずみと呼ばれたデクスターは,こうしたものにも充分対処できるという設定になっている。

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