<<大学院入試情報>>

 

民族学考古学研究室の大学院コースに入るには、大学院文学研究科の入試(民族学考古学)を受験することになります。修士課程(前期博士課程)の入試は年2回、9月中旬と2月下旬~3月初旬に行われます。 1次選考の科目は、外国語と専門領域で、2次試験として面接をおこないます。博士課程(後期博士課程)の入試は年1回、2月下旬~3月初旬に行われます。1次選考の科目は、英語、第2外国語、専門領域で、2次試験として面接をおこないます。詳細は下記のリンクページをご参照ください。

 

 

研究室紹介

 

私たちの民族学考古学研究室は文化の歴史学的研究を目的とし、物質文化研究とフィールドワークを方法論として共有する教員、院生、学生から構成されています。院生諸君は、専任教員が共同して運営に当っている大学院研究会(院ゼミ)に参加し、多角的な指導・示唆をえつつ研究活動を進めることになります。 私たちの教育目標は、専門性と学際性を兼ね備えた人材育成にあります。たとえば現在の研究室では、東日本各地の縄文土器、弥生土器を対象に編年及び地域間・系統間関係の解明を目指す研究、動物骨や陥穴の分析を通じた旧石器時代、縄文時代の狩猟活動の復元、ローマ時代のヨルダン(デカポリス)、後期青銅器時代のエジプトとカナンの関係、イスラエルにおける遺跡保存活用の問題(パブリック考古学)、中国渭河平原に見る土壕景観の近現代史、八重山諸島の先史文化とサンゴ礁資源の関係史、南西諸島における島嶼沖積低地の完新世環境史と遺跡出土貝類の整合性、水俣病をめぐる多様な主体間の絡み合いと景観形成の歴史についてオーラルヒストリーと物質文化研究の接合からアプローチする歴史人類学的研究を進める大学院生らが研鑽を積んでいます。

 

多様な研究を展開する院生諸君との出会いは、教員にとっても自身の関心領域を広げる学びの機会にほかなりません。世代や立場を超えた対話や議論、それはまさに文化研究でいう「出会い→絡み合い→創出」のプロセスであり、ここに「民族学考古学」という名称を掲げる意図があります。 毎週金曜日3時限(午後1:00-2:30)に開催している研究会(院ゼミ)は、他専攻・他学部・他大学・他機関の研究者、大学院生、学部生の皆さまにも広く門戸を開いております。物質文化研究とフィールドワークに根ざす歴史学、考古学、民族学、文化研究にご関心の皆さまの参会をお待ちしております。

 

→連絡先:03-3453-4511(慶大代表)or toru38アットマークflet.keio.ac.jp

民族学考古学研究室ホームページ

 


教員紹介

氏名
キーワード 関心領域 私の一枚
杉本智俊
西アジア考古学
聖書考古学
イスラエル
アラム
フェニキア
新ヒッタイト
一神教
図像学

私の専門は、西アジアの考古学、特にイスラエル、ヨルダン、レバノンなど東地中海地域の考古学です。時代的には中期青銅器時代からローマ時代が中心です。これは旧新約聖書が書かれた地域・時代であり、この地の物質文化と聖書の記述の関係を探る聖書考古学にもおおいに関心があります。

 

毎年夏休みを中心にイスラエル、エン・ゲヴ遺跡で発掘調査を行っています。これは当研究室を中心に、慶應義塾大学の地理学や建築学の専門家たちと共同して研究しているものです。興味のある学生たちは、大学院生を中心にこの調査の核となって活躍しています。エン・ゲヴ遺跡はガリラヤ湖東岸に位置する遺跡で、紀元前10世紀から8世紀頃の王室領、大型公共建造物などが出土しています。イスラエル王国の性格解明やイスラエルとアラム、フェニキア、新ヒッタイト、ゲシュル、アッシリアなどとの関係を考える上で貴重な資料を提供することになると考えられます。

 

また、イスラエルは一神教が成立した地であり、当時の一神教と多神教の関係、成立過程にも関心があります。具体的には、土偶、小像、香台等の宗教遺物の考古学的、図像学的分析を通して、聖書学や宗教学とは違った視点から、当時の宗教環境を復元したいと願っています。

 

言語文化研究所では、アッカド語、ヘブル語、古代エジプト語、アラビア語等の講座が常時開設されており、これらを学ぶこともできます。こうした分野の研究に関心のある方は、ぜひご遠慮なくご連絡ください。

イスラエル発掘
佐藤孝雄
環境史
動物考古学
先住民研究
北アジア

人と自然との関係史を読み解く為に、遺跡から出土する動物骨や貝殻の分析に取り組んでいます。時代や地域の別なく人類とは分かちがたい関係にあった動物。その遺体を分析する研究者の関心はおのずと長大な時空間に及びがちです。かくいう私も、これまで更新世から現代に至る様々な時代の動物遺体を分析対象としてきました。また、フィールドも、長年対象地としてきた日本列島の北部やシベリアに、近年、南西諸島が加わり、ますます広がりつつあります。 もっとも、いずれのフィールドでも、通史の把握を念頭に置き、調査・研究に当たっていることに変わりありません。動植物の遺体がわけても長期の歴史を語れる遺物であること。この点を意識し、現地に訪れた際には時代を問わず、なるべく多くの資料を観察するよう心がけています。

 

大学院生の諸君には、必要に応じ自身の専門領域たる動物考古学の方法論を講じることはもとより、折りに触れこれまで目にしてきた多様な自然環境と各地に育まれてきた先住民文化に関する知見も伝えたいとおもいます。加えて、目下、私が組織・参画している研究プロジェクトはいずれも学際的なメンバーによって構成されています。院生諸君とは地域史の多角的かつ総合的な読み解きが模索される環境下で協業を重ねるなか、互いに視野をひろげ、ひいては文化財の活用・資源化など、時代と斬り結ぶ考古学・歴史学の役割なども論じ合えることも期待しています。

 

自然と文化を分かちがたい総体と捉えて歴史研究を進める視点。地域史を緻密に読み解くために、関連諸科学の研究動向にも目をくばる広い視野。多様な文化事象を扱う教員・院生が集う院ゼミではそれらを育み合うことも意識し、活発に意見を述べ合いましょう。

マンモス
山口 徹
ジオアーケオロジー
景観史
歴史生態学
歴史人類学
環境史
民族学
コロニアルヒストリー
オセアニア
環礁

「景観」は多義的な概念ですが、今みる景観を人間の営為と自然の営力が生み出した歴史的産物と位置づけてみます。すると、その理解のためには自然科学と人文社会科学を連接する文理融合型の歴史学的視点が必要になります。それは現在理解のための歴史学でもあり、過去と現在を二分する近代的思考を超克する方途となります。

 

オセアニア考古学では、過去20年ほどのあいだに地球科学や古生物学と協働するジオアーケオロジーが進展し、島嶼を舞台とした人間と自然の関係史について多くの情報をもたらしてきました。研究室に新たに導入した電子顕微鏡やX線元素分析装置、ミクロトームなどは、こうしたジオアーケオロジー研究に役立てることができます。しかし、人間と自然の関係は過去に限ったことではなく、今もなお引き続いています。いま注目を集める地球温暖化の諸問題はもちろんのこと、私たちが生きる身の回りの景観も、その流れのなかで理解すべきだと思うのです。

 

ジオアーケオロジーの視点を拡張しながら、地球科学や歴史人類学の研究者と「景観」概念を共有し、ツバルやマーシャル諸島の環礁で学際的なフィールドワーク(環境省「地球環境総合推進費」)を進めているうちに、海面上昇や有孔虫、人やモノの移動、移植される景観、社会ネットワークと資源利用、権威と権力、歴史実践、環境保全など色々なことへの関心が絶え間なく湧いてきます。それはまさに、出会い・絡み合い・創出の体験です。

 

平成20年度からはさらに、「サンゴ礁学」をテーマとした新学術領域研究に参画し、八重山諸島石垣島の調査を新たに始めました。サンゴの代謝を究明する実験系生物学と対話するのは簡単ではありませんが、自分自身の専門研究をしっかりと保ちながら幅広い分野と議論を交わしてゆけば、新しい知の地平がきっと開けると確信しています。

プカプカ環礁

安藤広道

先史考古学
縄文時代
弥生時代
古墳時代
東アジア

私はこれまで、弥生時代を中心に縄文時代~古墳時代の研究をしてきました。研究を進めるにあたっては、どんな課題に取り組む場合でも、東アジアという広い視野のなかで考えることを心がけています。また、その説明に際しては、マルクス主義的唯物史観の考え方を参考に、人間の生の生産・再生産を軸に諸事象の複雑な相互作用の解明を進めていくことで、歴史を全体論的・弁証法的に理解することを目指しています。というより、学生時代から研究対象にしていた南関東地方の弥生文化を、各種遺物、集落、墓制、生業、世界観といった多角的な側面から理解しようとしているうちに、関心をもつ時代、地域が自然と拡がり、多様な事象相互の関係性の解明が必要になってきたというのが正直なところです。

 

また、私は、基本的に身近にある考古学資料から研究を組み立てていくのが好きです。慶應義塾の日吉・矢上キャンパスや湘南藤沢キャンパスは、大規模な縄文時代~古墳時代の遺跡であり、特に日吉・矢上の遺跡は、東日本の弥生時代・古墳時代研究において、きわめて重要な意義をもつ遺跡であることがわかってきました。一方、三田の研究室には、研究室の先輩たちが日本列島各地で調査・収集してきた、膨大な量の縄文時代~古墳時代の資料が保管されています。つまり、慶應義塾は、学内にある遺跡や資料で幅広い研究が可能な、非常に良好な研究環境にあると考えています。

 

なお、最近私は、日吉にあるアジア・太平洋戦争時の帝国海軍の地下壕の調査、研究も始めました。そこで、近現代史研究における考古学的方法の有効性を確かめてみたいと思っています。

 


参考文献・図書

杉本智俊
  1. 杉本智俊.2008『図説:聖書考古学-旧約篇』(河出書房新社)
  2. Sugimoto, D. T. 2008. Female Figurines with a Disk from the Southern Levant and the Formation of Monotheism. Keio University Press.
  3. マザール,A. 2003(杉本・牧野訳)『聖書の世界の考古学』、リトン)
  4. 杉本智俊 2009「鉄器時代の土器」、「ゲシュル地方と新ヒッタイト文化」月本昭男他編『エン・ゲヴ遺跡 発掘調査報告1998-2004』日本聖書考古学発掘調査団(リトン)pp.29‐89, pp.195-237.
  5. 杉本智俊 2008「古代イスラエルの宗教関連考古遺物と一神教の成立過程」市川裕、松村一男、渡辺和子(編)『宗教史とは何か』上巻(リトン)pp.229‐266.
佐藤孝雄
  1. 加藤博文 2008『シベリアを旅した人類』東洋書店
  2. 河西英通, 浪川健治, M・ウィリアム・スティール(編) 2005『ローカルヒストリーからグローバルヒストリーへ: 多文化の歴史学と地域史』岩田書院
  3. レンフルー, C. (著)/小林規則(訳)・溝口孝司(監修) 2008『先史時代と心の進化』ランダムハウス講談社
  4. Branch, N., Canti, M., Clark, P. and C. Turney. 2005. Environmental Archaeology: Theoretical and Practial Approaches. Hodder Arnold.
  5. Dincause, D. 2000. Environmental Archaeology: Principles and Practice. Cambridge University Press.
  6. Rboerts, N. 1998. The Holocene : An Environmental History. Second Edition. Blackwell Publishers.
  7. Watkins, J. 2000. Indigenous Archaeology: American Indian Values and Scientific Practice. Altamira Press.
山口 徹
  1. クロノン,W. 1983『変貌する大地:インディアンと植民者の環境史』勁草書房
  2. クロスビー,A.W. 1986『ヨーロッパ帝国主義の謎:エコロジーから見た10~20世紀』岩波書店
  3. アーノルド,D. 1996『環境と人間の歴史:自然、文化、ヨーロッパの世界的拡張』新評社
  4. ギアツ,C. 1963『インボリューション:内に向かう発展』NTT出版
  5. サーリンズ,M. 1985『歴史の島々』法政大学出版局
  6. ワグナー,R. 1975『文化のインベンション』玉川大学出版部
  7. 近森正(編) 2008『サンゴ礁の景観史:クック諸島調査の論集』慶應義塾大学出版会
  8. 保苅実 2004『ラディカル・オーラル・ヒストリー:オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』お茶の水書房
  9. Crumley, C.L. 1994. Historical Ecology: Cultural Knowledge and Changing Landscapes. School of American Research Advanced Seminar Series.
  10. Kirch, P.V. and T.L. Hunt. 1997. Historical Ecology in the Pacific Islands: Prehistoric Environmental and Landscape Change. Yale University Press.
  11. Kirch, P.V. and M. Sahlins. 1992. Anahulu: the Anthropology of History in the Kingdom of Hawaii. The University of Chicago Press.
安藤広道
  1. 安斎正人編 1999・2000『用語解説 現代考古学の方法と理論Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』同成社
  2. 近藤義郎 1983『前方後円墳の時代』日本歴史叢書, 岩波書店
  3. 鈴木公雄 1988『考古学入門』東京大学出版会
  4. 都出比呂志 1989『日本農耕社会の成立過程』岩波書店
  5. Colin Renfrew and Paul G. Bahn (ed). 2005.Archaeology:The Key Concepts. Routledge.

 


研究プロジェクト

杉本智俊

 

 

佐藤孝雄
山口 徹
  • サンゴ礁-人間共生系の景観史」文科省(新学術領域創成型)「サンゴ礁学」計画研究代表者(H20-24年度)
  • 「環礁上に成立する小島嶼国の地形変化と水資源変化に対する適応策に関する研究」環境省地球環境研究綜合推進費研究分担者(H20-22年度)
安藤広道
  • 「縄文・弥生社会の人口シミュレーションと文化変化モデルの構築」文科省科研費(基盤B)研究分担者(H21~23年度)
  • 「農耕社会の成立と展開-弥生時代像の再構築-」国立歴史民俗博物館共同研究 研究分担者(H21~23年度)
  • 「日吉キャンパス一帯の戦前出土考古学資料の基礎的研究」慶應義塾H21年度学事振興資金個人研究(A)