1888年ソウル奉元寺霊山斎(映像)
                                        野村伸一
 映像

 朝鮮半島の寺院では霊山斎(ヨンサンジェ)が伝承されている。これは梵唄(ポムペ)(唄、楽器演奏、踊りを伴う)、その他、密教的な儀礼により死者霊を成仏させる法会である。屋外に大きな掛仏(クェブル)を据え、その前で僧侶が信徒を導きつつ儀礼、舞をする。この形式はチベット仏教などと共通点がある。霊山斎とは霊山會相すなわち霊鷲山で釈迦が説法する法会を意味する。これにより衆生は歓喜に包まれ、天地は震動し、天からは天花がくだり、諸天は伎楽で供養をしたという。霊山斎の起源は不明だが、梵唄や霊魂済度儀礼は新羅にすでにあった。それゆえ淵源は新羅、儀式次第は高麗時代成立ではないかとみられる(金ジョンイル「霊山斎」)。

 主要な儀礼  まず引路王菩薩の導きで、薦度すべき諸霊魂を寺の入口から堂内に迎える。そして灌浴(クァニョク)を施す(後述)。次に梵天、帝釈天などの神衆を招き道場を浄化する。このあと屋外に移る。掛仏(霊山會相のさまを描いたもの)が掲げられ、その前で仏菩薩、十王、神衆、諸霊への供養(「観音施食」<観音の力により往生させること>)などがある。この間に僧舞が度々舞われる。最後は仏菩薩以下諸霊を送り返す(法顕『霊山斎研究』)。

 灌浴(クァニョク)  灌浴(クァニョク)はとくに注目される。これにより霊魂の三毒(貪欲(とんよく)、瞋恚(しんい)、愚癡(ぐち))を取り除く。灌浴には仏法、真言、香水を用いる。この儀礼は堂内の隅でやる。二人の僧が真言を唱えつつ、霊を象徴する紙の作りものを洗い清める。灌浴は水陸斎(スリュクジェ)でもみられる。霊魂の灌浴は中国の道教儀礼でもみられる。そしてまた、朝鮮南部の巫俗儀礼洗い(シッキム)クッの核心儀礼でもある。これらをみると、民間の洗い(シッキム)の儀は巫歌(ムガ)とともに仏教儀礼から取り込んだものと考えられる(野村伸一『東シナ海文化圏』、222-223頁参照)。

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