6.カンダンガリ村のテイヤム

テイヤム：色彩と跳躍の女神たち　

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6.カンダンガリ村のテイヤム

1991年12月27日から30日にかけて(ダヌウ月の11日から14日)､カンダンガリ村では3年に1度のまつりがおこなわれた｡総費用65000ルピー(40万円ほど)とのことであるが､年配の運転手でも月1000ルピーていどの収入だというから､この金額はたいへんな額である｡これはムラの80戸の家で負担する｡こういうまつりは当然､なん年かに1度ということになるだろう｡10年に1度とか､長いのになると60年に1度などというのもあるという｡: 　
以下はそのときの儀礼の次第である｡

１２月２７日

ヴァンナン

: 　; ヴァンナンによる神よばいとカミの示現､それがテイヤムであり、カリヤッタムは別称である｡午後6時すぎ､ヴァンナンの青年によるトータム（photo1、photo2）｡寺院の境内中央には小祠マダプラがあり､青年はその前に立ってカミの来歴をとなえていく｡腰に赤い布､頭には背中にまで垂れる赤い色の布と同じく赤色のかぶり物があって、これが一際目立つ｡上半身は裸。その青年の前にある楽器は両面からたたく小鼓チェンダで椅子の上に置かれる｡ひじょうにゆったりとした韻律でいかにもカミの本縁譚語りといった趣だ｡; 　; その間､寺院の司祭である3人のコマーラムが上半身裸、白い布を腰に巻いただけの姿で祠をきよめる｡

コマーラム

: 　; しばらく単調なトータムがつづいたあと､3人のコマーラムが沐浴をして祭儀にのぞむ準備をととのえた。そして手には大鎌のようなヴァル､先が三つになった銛のようなスラム､それに盾をかたどったパラジャという武器を携え､幾分緊張した面もちで原始的な踊りをはじめた｡かれらはここの主神カンナンガット･バガヴァティはじめプランダット･バガヴァティ､プディヤ･バガヴァティなどの女神を迎えるために踊る｡コマーラムは寺の祭司であり､激しく体を踊らせることもあるが、みずからはカミには変身しない｡カミはコマーラムではなくヴァンナンのほうに憑く｡ヴァンナンたちの伴奏はチェンダのほかに､シンバルのようなエルダ｡カミを誘い出すドンドンドンという急迫した調べが強く耳にはいってくる（VTR1 、 VTR2 、 VTR3 、 VTR4 、 VTR5 、 VTR6 、 VTR7 ）。; 　; 3人のコマーラムとふたりのトータム語りのヴァンナンとが向き合う｡女神がトータム語りの身に降りると､ふたりのヴァンナンは手をつないだまま上体をくねらせ、まるで宙を浮遊するかのようだ｡脇から支える者がいる｡おそらくこの支えの者がいなければふたりのトータムは倒れてしまうだろう。腰を引き胸をそらす、不思議な憑依の状態で祠の回りを幾度も巡る｡; 　; テイヤムの初日の神よばいは十分、魅力的であった。近くのラマンダリ村でも同日にテイヤムがあるのだが、このカンダンガリ村のものだけをみることにする。翌日も夕方からトータムがはじまるとのことで、この夜は９時ごろ宿に引きあげる。

12月28日

　
夕刻5時半ごろから､トータム｡今日も3人のコマーラムがカミを迎え､そのカミをふたりのトータム語りに乗り移らせる（VTR1 、 VTR2 、 VTR3 、 VTR4 、 VTR5 、 VTR6 、 VTR7 、 VTR8 、 VTR9 、 VTR10 、 VTR11 ）｡境内の一隅ではテイヤム(カミ)の出現の準備が進む｡入念なメーク･アップ（VTR12 ）｡: 　;

デイバム

: 　; マダプラ（祠）を十分に巡りおえてから､3人のコマーラムが供え物をあげる｡すると楽の音色が激しくなった。初めのテイヤムの登場だ（photo1 、 photo2 、 photo3 、 VTR12 、 VTR13 、 VTR14 、 VTR15 、 VTR16 ）｡赤いカオ。マダプラの前に椅子があり、カミはこの椅子の周囲を激しく踊る｡頭上の大きな被り物ムディは赤い地に金銀の飾りできらびやかだ｡背には縦髪のような白い房を着け､腰から下はひだの着いた赤地に白線入りのスカートのようなものをまとっている｡これは男神プリエール・カンナンの化身でデイバムという｡このカミは軽快なステップを踏みつつ腕を左右交互に前に突き出す｡一カ所にはじっとしていられないのか、動きはめまぐるしい｡ややあって女神は見物の村人たちを祝福に回る｡このカミは胸のあたりにいっぱいに着けたチェッキーの花の一片一片を村人に分けてやる｡赤いチェッキーの花びらは幸福を意味する｡デイバム神は祝福しては､ふたたびマダプラの前で跳びはねる｡前後し回転する｡しばらくして､カミは剣を取った｡一体にテイヤムに現れるカミは剣を携えて恐ろしい性格を持っている｡; 　; 踊り終えると､デイバム神は祠のまえに腰を下ろす｡そしてコマーラムに向かってなにやらとなえてひきさがった｡デイバム神の踊りと祝福はおよそ2時間つづいた｡
　: 午後10時すぎ､プランダット･ヴァガバティ女神をよびだすためのトータム（VTR17 ）｡そののち3人のコマーラムと2人のトータムによる､あの上体をおよがすようなしぐさと円行進｡ここではまだテイヤムの登場はない｡

12月29日

　
休憩があって､深夜12時過ぎ､寺院の外､別に用意した舞台でドサ回りのムラ芝居がはじまる｡期待してみたのだが､スピーカーを使った新式の大衆劇でいくらか興ざめだ｡せめて､ここで､近縁性が想定されているカタカリでもやってくれたらとおもったのだが､村人たちはけっこう楽しそうにみいっている（photo1 、 VTR1 、 VTR2 ）｡: 　;

ベーラッタム

: 　; 寺院の外で大衆劇がつづけられる一方で、トータムがはじまった。時刻は29日､午前2時半を過ぎている｡今回のトータムはベーラッタムといわれる。マダプラの前に立って静かに唱えるのではなく、いきなり激しいチェンダの音色とともにはじまった。チェンダを乱打し、目を大きくみひらき、左右をうかがう。そして獣のようにくるくると巡り、跳びはね、走る。まるでモノに憑かれたかのようだ。そばでは篝火が振り回される。祭儀の場が一挙に緊張に包まれる。介添えの者がいてチェンダとベーラッタムの担い手とを手で押さえる。それがなければ、この担い手はどこかへ走り去りかねないようすだ。かれはチェンダを地に置くと、バナナの葉に包まれたお供えを両手でうやうやしく胸元に抱え、顔の前に掲げる。そこには火がともされていて、見開いた大きな目が闇のなかに浮かび上がる。かれはときにそのお供えを地に近く降ろし、ヤーハッ、というような叫び声をあげる。こうした踊りは20分ほどつづいて終わった｡これはプリエール・カンナンという男神の神力を誇示するものだとのことであった（photo2 、 VTR3 、 VTR4 、 VTR5 、 VTR6 、 VTR7 ）｡; 　; つづいてふたりのトータム語りが現れた｡中心の祠の後方、右側には武器を安置した小さな祠が別にある｡そこにもマダイール・チャムンディ､ヴィシュヌムルティ､クンドル・チャムンディといったカミがまつられている｡ふたりは同時に男神ヴィシュヌムルティに向かってトータムをとなえる｡ここでもチェンダを置いてから､激しい踊りが演じられるが､迫力は先のものに較べるといくらか劣る｡とはいえ､手に刀､弓矢を携えてのしなやかな身のこなし､跳躍はなかなか見応えがある｡ここでも最後に見物の人びとにチェッキーの花を与えてひきさがる（VTR8 ）｡; 　; この間に外での演劇が終わった｡時間は深夜3時を回っているが､少しも退屈を感じさせない｡

プリエール・カンナンＩ

: 　; トータムにつづいてテイヤムが現れた｡男神プリエール・カンナンである（VTR1 ）｡先に現れたデイヴァムと似たいでたちだが､こちらは頭に傘を広げたような大きな円板形のムディを着け､手には剣を携えている｡しかし､激しく踊るわけではなく主に人びとを祝福して回る｡

ナランビル･バガヴァティ

: 　; これにつづいて現れたのはナランビル･バガヴァティ女神である（ photo1 、 photo2 、 photo3 、 photo4 、 photo5 、 photo6 、 photo7 、 VTR1 、 VTR2 、 VTR3 、 VTR4 、 VTR5 、 VTR6 、 VTR7 ）｡この女神は大きな乳房を露にし、頭に着けたムディも大きくひときわ華やかである｡なによりも腹からは4本の松明を突き出し､また頭上にも松明を灯して踊るので､みる者を圧倒する｡口からは銀色の牙が出ている｡さらに両手には金属の武器を携え､時折､威嚇するかのように人びとの方へ突進しては立ち止まる｡腹に差した松明の下にはバナナの葉で作った房状の下がりが目につく｡コマーラムが生きた鶏を渡すとその首を武器で断ち切ってしまう｡森から抜け出てきた恐ろしき女神といった感じだ｡しかし､最後は欝金色の粉を人びとに分け与え祝福してあげる｡1時間ほどして終えた｡; 　; このあとなおテイヤムが連続して現れるとのことであったが､いったん宿舎に戻ることにした｡早朝6時近くであった｡; 　; 29日の夕刻､5時半ごろ祭場にいく。トータム（VTR8 、 VTR9 ）がはじまり、主神カンナンガット･バガヴァティをよんでいる｡しかし､この女神はすぐには現れない｡村人によると､それは次の日の朝、最後に出るのだという｡3人のコマーラムによる例の儀式舞（photo8 、 photo9 、 VTR10 ）がおこなわれたあと､ふたたび初日の最初のテイヤムであるデイバム（ photo10 、 photo11 、 photo12 、 photo13 、 photo14 、 VTR11 、 VTR12 、 VTR13 、 VTR14 、 VTR15 ）が登場した｡さすがに今回はその動きがよく観察できた｡5､6歩あるいては一瞬､止まる｡そして方向を変え､時に両手を広げて鳶が回転するようなしぐさをみせたりする｡あるいは前後左右のステップもある｡腰に下げた鈴の音色がチェンダの急の調べによく合って快い｡およそ40分ほど｡; 　; 午後8時半､またはじめに戻ってトータムがとなえられる｡以後､3時間以上､2､3のカミのためのトータムがつづく｡その間､近くのムラの楽隊がやってくる｡かれらはパンジャワッジャムといわれ､ここカンダンガルの寺院のなかにはいりこんでしばらく楽器を奏でる｡この楽隊には子供たちの行列もつき従っていて､かれらはカンダンガル村のカミがみにバナナやココナツなどの供え物を持参した（VTR16 、 VTR17 、 VTR18 ）｡; 　; 隣村の一行が帰っていくと､ふたたびあの激しい動きのベーラッタムがはじまった｡目をむき、身を震わせ跳びあがり奇声を発する｡担い手も同じ｡迫力十分だ（photo15 、 VTR19 、 VTR20 、 VTR21 ）。

プリエール・カンナンII

: 　; 次に､プディヤ･バガヴァティのためのトータムが簡単にとなえられ､すぐつづいて､寺院のなかに薪が持ちこまれた｡この際､男たちはウォーオ､ウォーオと獣の泣き声のような奇声を発する｡薪に火がつけられた｡と､同時にプリエール・カンナンが登場した（photo1 、 VTR1 、 VTR2 、 VTR3 、 VTR4 ）｡; 　; さらにこれが舞う一方で､ヴィシュヌムルティ次いで､マダイール･チャムンディのためのトータムが正面からみて右奥の､小祠の前ではじまった｡

12月30日

時間は30日に入っていた｡午前2時ごろだったか､ナランビルとクンドル・チャムンディが現れた｡このときはクンドル・チャムンディに対する配慮から､撮影は一切止められた｡これはなかなか激しい踊りであった｡クンドル・チャムンディは火を口に含む｡紐に火をつけ､顔の回りに振り動かす｡椅子が出され､そこに座る｡顔作りをし､たちあがると､四方へ動き回りつつ､ワーア､ワーアと声を立てる｡: 　
楽隊の子供らもなかなかたくみに合わせて動く｡クンドル・チャムンディはやがて顔に面をつける｡これはクンドル・チャムンディ女神の別の姿、水牛の怪物マヒーシャス・アシュラを意味するという。両手には松明を持ち､これを振り回す｡背中に付けたものはヤシの葉で作ったものだろう､蓑のようにみえる｡採り物を松明から武器に変え､踊る｡やがて顔に付けた面のようなものを外すが､退場はしない｡: 　;

ナランビルとクンドル・チャムンディ

（ photo1 、 photo2 、 VTR1 、 VTR2 、 VT R3 ）: 　; そこへ､ナランビル女神が火を一杯身につけて走り出てきた｡そしてクンドル・チャムンディ女神と交歓の踊りをはじめる｡女神たちは互いに相手を前にしてくるくると回転して力を誇示する。担い手たちの証言によると､これは二神の友情の表現なのだという｡いったんは寺院の内から外へ出､ふたたびなかにはいってくる｡なかなか派手な動きである二神が介添えの者とともに退いたのは午前３時半ごろであった。; 　; 10分ほどしてから､白い布を腰にまとっただけの男たちが10人以上､集まってくる｡ひとりのコマーラムが先導して先程から燃えていた火の周りに並ぶ｡やがて裸足の男たちが燃え残っていた焚火の火を蹴散らして走り巡った｡火渡りだ（photo3 、 photo4 、 photo5 、 VTR4 、 VTR5 ）｡; 　; 5分ほどで火渡りが済むと､プディヤ･バガヴァティ（ photo6 、 photo7 、 VTR6 、 VTR7 、 VTR8 ）が現れた｡からだ全体を松明で飾るいでたちは先にみたナランビル･バガヴァティによく似ている｡松明を腹よりも下の位置から前に突き出しているため､ヤシの葉で作った下がりのような衣装が焦げる｡そばについている者がしきりに火と衣装をととのえる｡このカミはそばに近づくだけでも熱い｡このいでたちで巡り歩き､祝福するのでは､カミもなかなかたいへんだ｡

ヴィシュヌムルティ

: 　; つづいて30日､午前4時15分ごろ､半ば獅子､半ば人間という男神ヴィシュヌムルティが現れる｡腰の辺り､それに胸の周りにもヤシの葉で作った下がりのようなものをまとっている｡中央の祠の前で弓矢を携えたくみに踊る｡身のこなしは柔軟だ｡

プランダット･バガヴァティ

: 　; ヴィシュヌムルティのあと、大きくも奇妙な三角錐状の被り物を付けたプランダット･バガヴァティが登場した（ photo1 、 photo2 、 photo3 、 VTR1 、 VTR2 、 VTR3 ）｡その丈およそ10メートルはあろうか｡突端は細くつき立っている｡手にはヴァル､スラムなど、例の武器を持っている｡鶏をもらうと､その首を切り離った｡この女神はさすがに身軽に踊るわけにはいかず､祠のまわりを巡っただけで退いた｡

ふたたび火渡りへ

: 　; ここまで連続してカミの出現がみられたが､まだ主神のカンナンガット･バガヴァティは現れない｡時刻は30日､未明5時を回っていた｡ここで白い腰布だけをまとった男たちがヒャーオ､ヒャーオと奇声を発しながら薪を運びいれた｡みていると､境内一面に薪を少しずつ積んでいる｡やがてこれに火を点けると､寺院内が完全に火の海となった（ photo1 、 photo2 、 photo3 、 VTR1 、 VTR2 、 VTR3 、 VTR4 、 VTR5 ）｡浄化の意味だろう｡; 　; 30分ほどして火が下火になると男たちは裸足のままこれを均しにかかった｡これだけでも熱いだろうに､すぐつづいてチェンダが鳴り響き､男たちのはだしの行進がはじまった｡初めは火を避けつつゆっくりと祠の周りを右巡りに回ったが､太鼓の響きが速くなり､コマーラムの態勢が整うと､この一面の残り火を蹴散らしにかかった｡もちろんはだしのままである｡まだ暗いなかで腰布をまとっただけの男たちがヒャーオと叫びながら火のなかを走り巡るさまは異様であった｡ヒトの声とはおもえない｡なにかモノが発するような奇声であった｡この勇ましい火渡りが終わると､コマーラムは祠の右側でカミへの供え物を恭しくあげた（photo4 、 photo5 、 VTR6 、 VTR7 、 VTR8 ）｡境内を浄め、大神カンナンガット･バガヴァティへの供物を献上するという意味なのだろう。

カンナンガット･バガヴァティ

: 　; そしてようやくカンナンガット･バガヴァティの登場の段となった（ photo1 、 photo2 、 photo3 、 photo4 、 VTR1 、 VTR2 、 VTR3 、 VTR4 、 VTR5 、 VTR6 、 VTR7 ）｡寺院の境内ではだれもがはだしでなければならない｡地はまだ相当に熱くて、わたしなど、慣れない者には自由に歩けない｡トータムがはじまった｡よばれるカミは正面入り口近くにまでやってきて椅子に腰をおろし待機している｡そこで簡単な顔作りをし､頭上にムディを載せる｡だが､このカミに限って､初め､カーテンのようなもので顔がみえないように人びとの視線を遮る｡; 　; 20分ほどして覆いの布が取りはらわれた｡大神は全身が赤あかとして目の周りは黒い｡銀色の牙はナランビル･バガヴァティのようだが､乳房は露出していない｡赤いチェッキーの花びらをいっぱいにとりつけたものを頭のかざりのところから無数に垂らしている｡楽隊の伴奏はゆったりとしていて､カミの動きもひじょうに遅い｡いかつく見張った目だけをぎょろぎょろさせながら寺の外側に立つ村人をみて回る｡手には武器を持ち､まるで相撲の露払いのような一定のかっこうをしたまま延えんと境内を巡る｡; 　; 夜は明け、あたりはすっかり明るくなっている｡あまりにゆっくりしたテンポで多少､間延びした感じがしていたところ､急に伴奏が速まり､カミの動作もきびきびしてきた｡飾りの大きさも苦にならないのか､足取りは軽く､回転も素早い｡登場してから1時間､伴奏が止んだ｡すると､大神の歩みが初めに戻ったかのように遅くなる｡だがまた祠を巡るうちに速くなる｡
　: こうして､いつ果てるとも知られぬような悠久な女神の行進が朝の清澄な空気のなかでつづけられた｡明け方､かなり減っていた村人がまたぼつぼつ現れてきた｡大神は村人を祝福し､チェッキーの花びらを一つずつ与える｡これをこのあと何時間もくり返すのだという｡演じるのは一行のリーダーであるペル･ヴァンナン（photo5 ）である｡激しさはないが､のそのそと身をくねらせる踊りには風格があり､祝福を受けにくる村人の顔には安堵の表情がありありとみえる｡; 　; ▼　Next

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