＜注＞

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注1）　その詳細およびシッキムクッの種類については野村伸一「死者の道行」（『日吉紀要　言語・文化・コミュニケーション』No.11)､1993年参照。シッキムクッの種類は多く、死霊済度だけでなく家門にめでたいことがあったときにもおこなわれた。

注2）　韓国語のチュムということばの意味するものは多彩で、これは日本でいう舞いと踊りを含んでいる。民俗戯のなかで集団で即興的に乱舞するホットゥンチュム、仮面戯でみられる雑神の跳梁をおもわせる跳舞、巫覡がおもむろにカミをよびいれる舞いなどいずれもチュムである。これらはおおよそ、巫覡が旋回してカミを迎え入れるチュムと、楽士たちがもどきのかたちで跳躍を主として演戯するチュムとに分けられるが、その違いはクッの構造とのかかわりでみるとき、根源的なものとはいえない。両者は要するにカミの属性の違いを表しているにすぎない。結論的にいえば、それらはいずれ同じクッという場から出ているのである。前者は日本でいう舞いであり、これは帝釈（チェソク）や山神（サンシン）などのカミよばいに伴うもの。一方、後者は日本でいう踊りで、いわばカミのおつきの雑神あるいは雑鬼の登場にかかわるもの。通例、後者は農楽隊やクﾜンデなどのチュムに代表されるが、本来のクッでは舞いもあり、また激しい踊りもある。それゆえチュムということばはクッそのものともなる。

注3）　巫女のことを全羅道ではこうよぶ。タンゴルとは得意先の意味で珍島の巫女たちは近年までも自分の持ち場ともいうべきタンゴル区域をいくつか所有していた。金大禮氏もムラを単位として五つほど持っていたが、最近はそこに降神巫がはいりこんでクッをすることが多くなったといって嘆いていた。タンゴルを持つ巫女をタンゴッレとよんだ。

注4）　ハンは漢字「恨」の音読みだが、「うらみ」ではたりない。庶民の日常語としては長いあいだに積もり積もった胸中のやるせなさを意味していて、意趣返しのようなかたちで解くべきものではない。しかるべき手続き、つまりクッで解くものである。

注5）　これはシッキムクッのひじょうに高度な音楽性によるものとおもわれる。巫歌をおぼえただけではクッにならない。楽士の奏でるリズムには即興性があり、これに応じて変幻自在にうたえなければならない。

注6）　シッキムクッの構成は大体一定しているが、担い手のタンゴッレによりやはりいくらか順序が異なる。

注7）　通例紙銭（チジョン）とされるが、霊の移動を促すときに振られるので霊の依代の意味もあるかもしれない。珍島では重要な巫具である。

注8）　歌や踊りのリズムの型を一般に長短という。シッキムクッで使われる長短（チャンダン）は、ジニャン、チュンモリ、サルプリ、フッリム、オッチュンモリの５種類。伝統音楽に精通した劉永大（ユヨンデ）氏の教示によると、長短は西洋音楽でいう「小節」の概念に近いが、各小節に含まれる拍はより複雑であるという。また全体の音調は「六（ユク）チャペギ」といわれるもので、ものがなしい気分を醸し出す。「六拍の曲」という意味で、パンソリなどでも用いられ「界面調（ケミョンジョ）」とよばれる。これらは明らかに鑑賞に堪える音楽を意識して洗練させたものというべきであろう。その対象が両班だけであったかどうかはまた別の問題であるが。

注9）　巫歌のなかにも、あの世のコ、山神コ、怨恨コ、解怨コということばが現れるといい、確かにこれらのコは苦とすべきであろう。国立民俗博物館全羅南道編『珍島巫俗現地調査』1988年、43頁参照。

注10）　シッキムクッはふつうは夕方に準備をはじめ、夕飯や夜食などを取りつつ深夜もしくは夜が明ける前に終わる。

注11）　この構成の詳細および付図については、野村伸一「死者の道行」（『日吉紀要　言語・文化・コミュニケーション』No.11)､1993年、同「死者の道行（承前）」（『日吉紀要　言語・文化・コミュニケーション』No.13)1994年を参照。なお付図は今回、訂正を加えて再度、掲載した。

注12）　イエの外で死んだばあいなどに家族が霊をよんでほしいと頼むことがあり、そのときにはタンゴッレたちも霊をよびおろすという。南部の世襲巫は一般に霊の口寄せはしないとされるが、オギクッなどでもときには死者の声を一人称で伝える。

注13）　チノギではヨンシル、十王迎えでは神意伝達のなかの霊魂泣き（ヨンゲウッリム）がそれにあたる。

注14）　わたしは釜山のオギクッにおいてこの洗い儀礼をみたことがある。全羅道の影響なのか否かは明らかでないが、けっしてシッキムクッだけでやるわけではない。洗うときに「きょう霊駕（死霊）を入浴させましょう/現世の悩みを洗って往生極楽へ行きなさい」という巫歌が唱えられたりする（崔吉城（チェギルソン）『韓国のシャーマニズム』弘文堂、1984年、356頁参照）。

注15）　また、シッキムクッの巫歌に仏教用語がたくさん取りこまれていて、ひどく難解であるということは広く認められている。これらのことを考えると、仏教がシッキムクッの影響をうけたというよりは、その逆の流れを考えたほうがよいだろう。

注16）　以下の記述についても付図および前掲論文「死者の道行」を参照されたい。

注17）　シッキムクッのなかでノクコンチギをした事例は前引論文「死者の道行」、1993年、22-24頁参照。

注18）　草墳があるために全羅道では使者による死の確認のような儀礼が不要だったのだろう。つまり少なくともシッキムクッの前の霊は肉体から離れ去っているのである。ただし、棺頭（クワンモリ）シッキムクッは死後まもなく死体をそばにおいてやるもので、別である。おそらくこれは二次、三次のシッキムクッを考えていたのであろう。

注19）　霊の済度の前に霊を解放させるという観念は、同じ珍島シッキムクッの担い手蔡正禮タンゴッレによっても別のかたちで述べられている。この人のばあい、洗い（シッキム）儀礼の前に結び解き（コップリ）ではなく、霊魂上げ（ノグオッリギ）をするのだが、その理由はその前までは動くこともできなかった霊がやっと動けるようになり、それではじめて次のさまざまな儀を受けられるようになるからだという（国立民俗博物館全羅南道編『珍島巫俗現地調査』1988年、39頁）。

注20）　たとえば黄海道出身の金錦花（キムグムファ）万神はこんな巫歌を伝えている。「人は死んで虎となり、虎は死んで花となり、この世をばあの世とみなし、あの世をばこの世とみなし…」（金錦花『金錦花の巫歌集』文音社、1995年、179頁）。

注21）　金奉鉉（キムボンヒョン）『朝鮮の通過儀礼』、国書刊行会、1982年、302-303頁参照。なお、原文は国史編纂委員会編『朝鮮王朝実録11』成宗実録（四）、探求堂、1986年、470頁参照。金奉鉉氏の訳文と多少のずれがあるが、上記の原文の方を基にした。

注22）　タシレギは好喪（ホサン）、つまり円満な死を遂げたばあいにおこなわれた。

注23）　1997年３月に珍島文化院にいってたずねたが、現今のタシレギは公演のかたちだけとのことであった。

注24）　棺頭シッキムクッはふつうは出棺の前日におこなわれる。かつてタシレギもこの日におこなわれたのであるから、両者は同じ日におこなわれたことになる。もちろんそのばあいはシッキムクッのあとで演じられたのであろう。

注25）　チョングンということばははっきりしないが、シッキムクッのなかで霊の道行を願うところでも唱えられる（チョングンプリ）。薦度（チョンド）と同じ意味だとおもわれる。ここでは「薦度（すくい）の唄」と訳しておいた。

注26）　文化財管理局編『珍島タシレギ』（無形文化財指定調査報告書第161号）、1984年。なお同一のものが李杜鉉（イドゥヒョン）　『韓国巫俗と演戯』、ソウル大学校出版部、1996年に採録されている。

注27）　コリクッの演戯性については、前引拙著『韓国の民俗戯』、1985年、151頁以下参照。

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