トップ羽黒山の松例祭

羽黒山の松例祭


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 現在の羽黒山の松例祭は、12月31日夜二つの大松明を引き出して燃やす神事と、火口で新しい火を作ることを中心とした出羽三山神社の祭である。一名歳夜祭ともいわれている。もっとも厳密にいえば、この祭は羽黒山麓の手向部落の住民から選ばれた位上、先途の二人の松聖が出羽三山神社の斎館にこもって百日にわたる斎戒の生活に入る9月24日から始まるといえる。この日は斎館入口に2本の大幣をたてる「幣立祭」が行なわれる。以後12月30日迄、両松聖は11月初旬の手向部落及び増川郷など近郷の勧進、12月初句の鶴岡市内勘違の時以外は斎館にこもって精進潔斎の毎日を送る。

 斎館の大広間は位上方、先途方の二つの部分に分けられ、それぞれの正面に神壇が作られる。ここには興屋聖(入口に鍬と鎌とをつけた藁の小さな苫屋、中に五穀を収める)が安置される。両松聖は朝晩沐浴後、興屋聖の前で三山拝詞を唱えて祈念する。また出羽三山神社、開山をまつった蜂子王子社などに参拝する。信者の依頼があれば祈祷もする。こうして12月30日迄の斎戒の日々がすごされる。

 12月30日には位上方、先途方それぞれの大松明を作る「大松明まるき」の神事が神社前の広場で行なわれる。翌31日にこの大松明に火をつけ、33間はなれた場所までひっばって行ってたてるのである。以後1月1日深夜に至る一連の神事は、いずれも位上方、先途方の両者の競争の形をとっている、その際、位上方には山麓手向部落の上四町が、先途方には下四町が充当され、両者の若者組が競争の主体となっている。それ故、位上方と先途方の争いは手向部落を二分しての競争の形をとるわけである。12月31日午後は大松明の綱の一部を信者にまく「綱撤」の神事がある。この綱は火防のましないとして家の軒につるされる。位上、先途の両松聖が関与するのはここまで(12月30日の大松明まるきの時、大松明に祈念をこめる時と31日の綱撒の際最初の数本の綱を投げるだけ)で、この神事以後は各自の控所である補屋にこもったきりである。

 12月31日午後6時頃、神社本殿で神職により松例祭本社祭、引き続いて蜂子神社祭がある。一方位上方の補屋では上四町の、先途方の補屋では下四町の若者頭達が、大松明にかけてひく4本の引き綱のうち良いものを自分の町内のものにしようとして論争する「綱さばき」を行なう。この頃から広場では、くずれた大松明を再度作りあげる「まるきなおし」、大松明をひき出して立てる場所までの距離をはかる「検縄」、そこに穴をほる「穴掘」、めじるしの榊をたてる「榊」の神事が相続いて行なわれる。これらの神事はいずれも位上方と先途方の若者達の競争の形をとっている。

 午後11時、神社本殿で験競べが行なわれる。まず神前に相対して並んだ位上方、先途方各6人の神官が一人ずつ烏飛びを競う。これをおえると兎が出てきて中央の小机の前に座る。位上方、先途方の神官が二人ずつ順に兎の両脇にすすみ、扇子で小机をたたき、兎がこれに応じる(三回)、この時の兎の応じ方で両者の優劣がきまるという。五番目の時(五番目のみ松聖直属の小聖がつとめる)外に向かって法螺が吹かれる。これを合図に広場にある位上方、先途方の大松明(すでに火をつけられている)が若者によって榊の下の穴まで一気に引かれる。大松明は穴に逆に立てられ、勢よくもえる。この時の速さともえ方で優劣が判じられる。位上方が勝てば豊作、先途方が勝てば大漁になるという。

 翌1月1日、午前1時、広前の鏡松明(柱松ともいう)に火がつけられる。このあかりの下で国分けと火の打替の神事が境界を作り、境界設定に用いた定尺俸を神前に投じる神事である。「火の打替」の神事では、まず位上方、先途方各一人の松打(新しい火を作る役)が小松明を持った役者を前後に伴って、火口を打ちながら鏡松明の周囲を三回まわる。そしてまわりおえるやいなや数米先にいるかど持(火薬をうすくした液を入れた皿をもち、火を受ける役)の所に走って行き、競って火口で火をつける。そして早く火がついた方を勝とする神事である。

 以上の諸神事がおわると、神職が補屋に行き、「昇神祭」をする。引き続いて斎館で精進おとしの直会が行なわれる。こうして百日間に及ぶ松例祭の神事がおわるのである注1)

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注1 昭和39年12月30日から40年1月1日調査、昭和46年3月19日から20日補足調査。以下の記述分析は主としてこの両調査にもとづいている。なお松例祭については、戸川安章「羽黒山上の歳夜祭」旅と伝説14の1、松平斉光「羽黒山のおとしや」『祭−−本質と諸相」所収など参照。


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トップ羽黒山の松例祭:1.はじめに

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