4.コブンメンドゥ


コブンメンドゥの解題と巫歌(原文文武秉,翻訳野村伸一)

 1986年10月25日(梁昌宝(ヤンチャンぼ)口誦)
 済州島の神クッ「堂主霊迎え」において,「コブンメンドゥ」という一段は棚の上に本主(祭主)神房の明斗を隠しておいて,占いをしたり,クッをしたりしながら,明斗を探しあてる方法をいろいろと話し合い,やっとのことで明斗を探し当ててから,これを本主に返してやる儀礼である。「コブンメンドゥの道」ということばがあるが,その「コブン」の意味は「曲がった」の意味よりも「隠れた」の意味の方が強い。「コブンメンドゥ」は一種の「神物探し」である。クッの内容をみると,神房は「初公本縁譚」をとなえつつ,明斗と関連した部分にいたると,「霊筵堂主,三十王の道もただそう」といい,その明斗を「十王さまのところにさし上げよう」といっては祭場の内と外で踊り,カミの道を開いていく。そうして,明斗が「十王の棚」に隠される。神房は小巫となぞなぞ式の問答をしつつ,なくした明斗のかたちを描写し,結局,なくした明斗が何なのか理解する。明斗探しの順序と「初公本縁譚」の関係を子細にみると次のようになる。

  1. クムジョンオクスルバル(揺鈴):アギシ(むすめ)を閉じこめた屋敷の門を揺鈴を振りつつ開く場面。
  2. クムボンチェ(太い撥):身ごもったアギシを追いやるとき,父親がクムボンチェを授ける場面。
  3. ケチョンムン(開天門):三兄弟の父親が「わたしを訪ねてくる途中,何をみてきたか」と問うと,「天をみつつきました」とこたえるので,開天門を授ける場面。
  4. 太鼓・杖鼓・銅鑼・鉦:三兄弟の父親が子供たちに,母親を探そうとするなら,神房にならなくてはならないと告げるや,三兄弟が神の山にのぼり,モクサオギの木を伐って,ウッラングクポムチョナン(鼓),テジェギム(太鼓),ソジェギム(小鼓),サルチャンゴ(杖鼓)を作る場面。
  5. シンカル(神刀):東海の鍛冶の息子をよんで,三明斗を作る場面。
  6. ムボク(巫服):三兄弟が科挙に合格したとき,父親が「何がもっともこころよかったか」と問うと,紅牌と冠帯 ,赤い快子,錦の衣玉の帯がよかったというので,巫服をそろえてやる場面。

     神房はクッをするのに必要な本主の明斗と巫服をなくしてしまい,そこで占いをしてもらい,それらが世耕の地の「十王コブンヨンジル」に埋められたということを知る。神房が世耕神に,明斗を探してくださいと頼むと,世耕神は地を司る母親に頼み,さらに母親は十王(の世界)を司る息子に頼み,とどのつまり,なくした明斗が探しあてられる。そうして,本主の身内およびそれ以外の明斗がいっしょにされて,「セノリムクッ」がおこなわれる。このようにしてカミの道をただすというのが「コブンメンドゥ」なのである。
    (以上文武秉氏による解題)

     鉄の錠前がひとりでにはずれて門が開く(「初公本縁譚」より)
     林正国大監と金鎮国大監の長者夫婦には子がなくて,嘆きの日々を送っていたが,黄金山からきた朱子先生なる僧の勧めを受け容れ,寺に寄進をし,祈ったところ,女の子が授かる。秋に生まれたので,その名を黄丹楓紫柴明王阿只氏という。このアギシが15歳になったとき,父母は公の用事で家を明けることになる。父母はアギシを連れていくことができず,錠のついた部屋に厳重に閉じこめてでかける。だが,そのとき,黄金山から,かの朱子先生が施しをもらいにおりてくる。朱子先生はあらかじめ,アギシ(むすめ)の美しいことをきいていて,父母が留守をしている家にやってくる。
    (以上,ここまでの要約。訳者注)

     えー,(朱子先生が)降りていって,林正国の大監さまの家にはいっていって,まず門の外で「小僧がまいりました」というと,侍女のチョンハニムが出て「どこのお寺のお坊さんですか」「黄金山の朱子先生です」「どういうわけで降りてらっしゃいましたか」「寺も堂も壊れたので,施しの米をもらいまして,古びた堂,古びた寺を直そうとおもっておりてきました」「このうちでは,父親は天のお仕事,母親は地のお仕事を果たさんとおでかけになりました。お嬢さまは奥の部屋に座っていらっしゃって,施しをあげることができませんから,わたしが手ずから上げるので,受け取ってお帰りください」「なりません。チョンハニムの手でたとい十升,一俵くれたとしても,それよりは,アギシがいるなら,その手でくれる一握りの米のほうが功徳があります」こういうと,「うちのお嬢さまは奥の部屋に座っていらっしゃいます。お父さまの錠をかけた門は,お母さまがその錠を隠しておき,お母さまの錠をかけた門は,お父さまがその錠を隠しておいて,いってしまわれたので,施しの米を出してあげられません」「どうか,大門をみせてください。
    [朱子先生がアギシのところへきて対話。揺鈴を棚に載せる]
    その門を開ければ,施しの米を出してもらえるのですか」「では,どうぞお開けください」近づいていって,「アギシ,姫ごぜよ,この門を開けたら,施しの米を出すことができますか」「できるものなら,開けてごらん」近づいていき,一歩二歩とはいっていきながら,「天の玉皇の都城門を開けてきた,おー,クムジョンオクスルバル(揺鈴)よ」。(楽舞)
     堂主,三十王まで枝が広がり,足が広がったか,天の堂主へつづく三十王の道を正そう(楽舞)
     クムジョンオクスルバル チョナンナックェ(揺鈴か,未詳)までも一度に十王さまへ差し上げよう。(楽舞)

    明斗探し1:クムジョンオクスルバル(揺鈴)

     梁昌宝:(李貞子氏に)やあ,そんなところにいないで,こっちにきなさい,さあ。
     小巫 :はい,わかりました。いきます。あそこに,なにか載せてしまったけど,あれは何なんですか?
     梁昌宝:手もとにないけど,どうしよう。
     小巫 :それ,なけりゃないで,いいでしょう。
     梁昌宝:うん,そうとも。あんなもの,あれしきのもの,クッをやろうか,やるまいか。
     李忠春:何をなくして歩き回ってるんだ。
     梁昌宝:うん?
     李忠春:じゃがいも畑のかかしみたいじゃないか。突っ立っているだけで。
     梁昌宝:じゃがいも畑のかかしにも役割があるのさ。
     小巫 :何をなくして歩き回ってるの?
     李忠春:何をなくしたんだ?
     梁昌宝:説明したくともなんともいいようがないんだ。
     首神房:説明したくともなんともいいようがないんだって?
     梁昌宝:神房はぐるぐる回っているから知らないだろうし,脇に座ってる人たちはどうかな。
     李忠春:さっき,なんだか手に持ってたようだけど。
     梁昌宝:何かを?違うよ。
     李忠春:丸いもんで。真ん中になんかあったよ。
     梁昌宝:真ん中になんかあるだって?そりゃ,男ならみんなあるさ。丸いもんが
     李忠春:ぶらぶらとしたものがなんかくっついてるものだ。いかめしいもの。コブンメンドゥともいうもの。
     梁昌宝:なんだって,なんだって?
     李忠春:馬の鈴のようなものだ。
     梁昌宝:ちょっと近づいてきたな。さあ,もうちゃんといってくれよ。
     小巫 :これだ,これだろ。
     梁昌宝:ああ,それだ,ああ,それだ。
     呉方健:たたけ,たたけ
     一同 :(笑いながら)たたけ。
     呉方健:えーい,ぶったたいてしまえ。(笑い)
     一同 :そりゃだれのもんだ,だれのもんだ?
     李忠春:盗っ人はあすこにいたんだな。
     梁昌宝:それ,ひとつは秦夫玉のものだ。秦家のものだ。あの人はちょっとみると,おとなしそうだけど,おこったら,この小さな島にたいへんなことが起こるぞ。一騒動間違いない。うーん,ここにきてひっかかれたら,どうなることかな。ああ,それにもうひとつ。そう,そう。あの借りたもの。ほら,あの,南元のせんせい(梁昌宝)のものだ。さあ,出してくれよ。
     李忠春:南元のせんせいのもの?せんせいのもんだって?
    [梁昌宝神房が小巫たちと軽口を交わす]
     梁昌宝:せんせいのとこまではいけないだろう。ほかにもまだあるぞ。まだある。新村にいくと,ほら,金医員のものと李氏おっかあのものとがある。
     李忠春:そうか,あのおっかあのものか。ほかの連中のものはなくしてもいいけれど,あの女のものをなくしたら,お前,神房として生きていけないぞ。それだけでも,姿がみえたらとおもうけど,隠れているみたいだし。
     梁昌宝:いったん埋めておいてそいつをまたガリガリと引っ掻き回しちゃ,いけないな。うーん,こりゃ,ちょっと,思案のしどころだ。
     李忠春:太ったからだの,あの,実のお父さんのようなの(亭主金允洙)が笑っているよ。 梁昌宝:うん,落ち着いて,新しく作りなおしてみよう。
     李忠春:おお,作りなおすのか?
    [梁昌宝神房が小巫たちと軽口を交わす]
     梁昌宝:ほんとに,いいものがあるよ。海にいくと,まずウニがある,あれは大きすぎるので飛び出てるところを取ってしまい,そうだソム(小さなウニ)がいいね,ソム。
     李忠春:そう,ぴったしだ,ぴったし。
     梁昌宝:ぴったし?それをもってきて,さっとなかを開いて,中身は全部取ってしまって食べてね。その皮をひとつ取って,海の,ほら,カジメ,カジメのようにかたいものとか,牛島へいったら,あの幅のあるワカメがあるから,あれを取って使うとかして,それを取って吊り下げ,それにはまるいもの,丸々としたものといえば,ほら,子供たちのふぐり,あれを,釘を持ってきて曲げて,くっつけて,カラカラコロコロさせて,それを金氏と李氏のところに持っていって,あげ,もし,受け取らなかったら,大声で泣きわめいて,小さな柄杓のような爪でガリガリと引っ掻いてやり,南風の方へ向けて投げてしまえ

    太い撥の橋

     フォー,こうして,(僧が)やってきて,林正国の門はその手で開けられたけれど,施しの米を頭に載せて出てくるとき,むすめは,天をみつつ,前をみるまいとしては,青いノウルを被り,地をみるまいとしては黒いノウルを被ったのでした。無知な下賤のやからはみるまいと,黒いノウルを被って出て,施しの米を高くかかげ,低くすっと近い姿勢ですっと近くにいくと,ざるの端が傾き,米が下へぱらぱらとこぼれ落ちたのでした。施しをしようと手を伸ばし,一粒一粒拾ってみあげると,いつのまにか手が伸びてきて左に右につかみ,撫でさするので,むすめは,びっくり仰天し,内に飛ぶようにはいったのでした。僧が帰ろうとするとき,(アギシは)「門を開けることは知っていても閉じることは知らないのかい」僧が揺鈴をかざして一,二度振ると,錠のかかった門が現れるので,むすめが僧を罵ると,「これはどうしたことか。罵ったところで,これから,何カ月かのちになってごらんなさい。わたしを訪ねてくる気になるだろう」「とにもかくにもけしからん者だ」僧は飛びつくようにして,山形帽の端を少しちぎり,杖も半分折って形見を残したのでした。その日から,むすめは身ごもって,ひと月,ふた月,七,八カ月とたっていったとき,「ああ,お父さま,お母さま,三年間の官位や公のお仕事は,一年で切り上げて戻ってください」(侍女が)手紙を書いて差し上げたところ,それを受け取り,「早く帰ろう」といって,うちに戻ってきて,父母はそれぞれ内舎廊と外舎廊におはいりになります。厳格な男親のところへいこうとしては,厳格な堂の鏡(?)を三度みて,日の鏡も一度み,月の鏡,からだの鏡もみる。 糊のきいてない裳を着,そろりそろりと屏風をめぐらした部屋へはいっていくのでした。さて母親におめにかかろうとしては,「お母さまもカミだし,女性だし」(感づかれるといけない)とおもって,糊のきいた裳を着,腰を伸ばし腹を伸ばしして,母親の前に出ると,「こうするにはきっとわけがあろう。お前,こちらにきなさい。どれ」胸先を探ってみると,乳腺が張っているのでした。こうなってしまうと,どうにも仕方ありません。父親に申しあげないわけにはいきませんでした。申しあげると,「これは,なんといういいぐさだ。天罰を受けてしかるべきだけれど,両班の家で人を殺すわけにもいかない」そこで,遠くへ流すことにし,黒い牝牛を出し与え,正装のときの衣服を出して牛に乗せてやり,さて,むすめが「お父さま,お母さま,わたし,出ていきます」というと,父親は,太い撥を出して与える。
     十王コブンヨンジルへ太い撥を(楽舞)
     堂主,三十王まで枝が広がり,足が広がったか,天の堂主へつづく三十王の道も(正そう)(楽舞) 太い撥を,うん,十王さまのところへさしあげよう(楽舞)

    明斗探し2:クムボンチェ(太い撥)

     梁昌宝:あーあ,くる日もくる日もクソ垂れ流して尻を拭かずにいるみたいにだらしなく,しまりなく,明斗をなくしてしまって,どうしたらいいんだろう。あーあ,これはなんてぇことだ。
     李忠春:なんだ,このでくのぼうが。あきれたな,よく,なくすやつだな。これっぽっちもてきぱきとできない奴だ。からだを売る女が身持ちが悪いのとおんなじだ。
     梁昌宝:手に持って歩いていたのに,なくなってしまって。
     李忠春:正気なのか?うす馬鹿みたいに。
     呉方健:のっぽだからだろう?
     李忠春:うん,ちょっとのっぺりとしたもの,きせるのようなものを持って歩いていたんだろ?
     梁昌宝:おやっ,こりゃ近い感じだけど。
     李忠春:きせるのようなもの?
     梁昌宝:やい,この際,きっぱりといったらどうだ,何なんだ?
     李忠春:それは,ここにいるカンテギにきいてみろ。
     韓生昭の妻:わたしゃ,いわないよ。
     一同:(笑い)
     梁昌宝:きっぱりといってしまったら,どうだ?なんだ?
     李忠春:ああ,それは太鼓の撥というやつだ。
     梁昌宝:撥だって?撥なのか。それはお前,手に取ってみたのでそういうんだろ。撥のようなものなんだろう?
     李忠春:似たものだ。
     梁昌宝:似たものだろう。似たものというと。
     李忠春:あの,ソウルにいって,ソウルにいってみると,これっくらいのもの作ってあって。
     梁昌宝:これっくらいのものって,鉄で作ったもの?
     李忠春:いや,どーんとやるやつ。
    [ソウルの鐘について軽口]
     梁昌宝:ああ,それそれ。ああ,近づいたな,近づいてるぞ。それで,そのほんとの名前をいってくれ。それ,何だ?何ていうのか,すぱっと。
     首神房:すぱっといってしまったら,どう?(笑い)
     梁昌宝:こんなときにでもぶったたかないと,ぶったたくときがないな。
     李忠春:こうして口実をみつけては人をぶったたいてるんだろ。
     梁昌宝:こんなときにでも,ぶったたかなくちゃな。えーと,それがどんなものかというとね,むかしわが国に,あの李太祖以後に,ソウルにいくとエミレの鐘というのがあって,ソウルの鐘路のロータリーに。
     李忠春:それ,いったいなんの鐘だ?
     梁昌宝:ソウルの四つ角にいくと吊り下がっているやつ。
     李忠春:あそこにいる先生たちにきいてみなよ。
    [ソウルの鐘について軽口]
     梁昌宝:ソウルにある,その,なんだ。あの開天節(10月3日)と1月1日の午前零時になると,33回,あのソウル特別市長がでかけていってドーンと鳴らすやつ,なんだったっけ?
      高卿姫:ああ,普信閣の鐘。
     梁昌宝:普信閣の鐘,そうだ。さすが先生だ(はなした人をみて)。
     李忠春:いってぶったたいてみなよ。
     梁昌宝:いってぶったたいてみよう。
     高卿姫:知ってるくせにきいて。(笑い)
     李忠春:いって強くぶったたいてみなよ。
     梁昌宝:えー,ああ,その人をたずねてみると
     李忠春:むかし,あのノッポンイが,あれがね,クッをやらないといって,何もかも片付けてしまって。
     首神房:ノッポンイって?
     李忠春:鄭医員 のことだ。石南(は今もう亡くなったから,いうんだけど,光令 (でクッをしてはいけなくなって,石南のやつ,ねずみの子のようにすばしこくて。「杏源にいっては,とにかく李忠春に頼み,三陽にいっては梁クムソクに頼みさえすれば,きっとクッはできそうだ」と考えて,クッの準備をしていって,そのときにその撥を作って,ひとつくれたんだ。
     梁昌宝:ああ,それでね,クッにいってきたら,おれだけ営倉(にいれられちゃって。
     一同:(笑い)
     梁昌宝:警察が,「なぜそこへいってクッをしたのか」と質問すると,石南のやつ,「わたしはやっていない。梁昌宝がやったんでしょ」そういったので,連れていかれて,ひどい目にあったよ。
     李忠春:だいじょうぶだった?
     梁昌宝:ああ,生きてぴんぴんとしていたよ。

    十王コブンヨンジルを通って,仏道の地におりてくる

    [本縁譚。アギシガ苦難の道に]
     えーほー,太い撥の橋をかけたのでしたが,これとても,とうてい役に立たない道だといいます。お母さんは,十二幅のチマ(裳)と八幅のチマをもたせてやる。それを持って(アギシは)出ていくけれど,東も西もわからず,杖のあとをたどっていくと,アヤ山には火が上っている。そこを過ぎてくだってみると,下から上へと水が逆巻いているので,「あれはなんなの」「結婚するときは,夫が先にやってこなければならないのに,わたしたちは女のほうからまずいくので,これをアムチャンゲ(雌丈家)(といいます」「これは逆巻く水ではないの。さあ急いで渡ろう」歩いていくと,付け毛のようにトンイルナン(植物)が散らずにあるので,「あれをごらん」「ああ,お嬢さま,むかしは嫁にいくときは女は三つ編みの髪を六つに編み上げ帽子(のように,付け毛をしたのです」付け毛をして,歩いていくと,東には青山,西には白山,南には赤山,北には黒山がある。
     さてまた,青い水の海を越えていく。白い水の海を越えていく。南の赤い水の海,北の黒い水の海を越えていく。すると,薬水の海が三千里の何倍もつづき,くたびれ疲れ果てて,ああ,霊魂どもも深い水と海は越えていけないようなので,牛は解き放ってしまい,自分たちはあたりのもち米の畑にはいって泣きじゃくったのでした。  えーへー,遠い道を歩ききて,ひもじくなり,しゃがみこんで,悲鳥のように泣いているうち,無情の眼はうとうとしてしまう。しばらくすると,亀が現れ,「お嬢さま,わたしの背につかまりなさい」目を開けると,夢だったが,そこに,なか空っぽの揺篭があり,それにつかまっていると,薬水の海,三千里の何倍ものところを渡してくれる。そうして白沙の場にたどりつく。たどりついて,そこを越えると,大きな法堂に小さな門がある。そこで母親のくれた八幅のチマや十二幅のチマを取り出して,一幅ずつちぎりつつ,十二の大門を過ぎると,大きな門にたどりつきました。その脇をみれば,端の欠けた山形帽も掛けてあり,先のそげた杖も立てかけてある。 そこで形見のものを持っていって合わせてみると,ぴったりと合うのでした。お大師さまにあいさつを申しあげると,「わしを訪ねてくる者があるわけはない。わしの妻だといいはるならば,もち米を入れる甕を三つ出しておくから,それを爪でむいて籾にし,三つの甕をいっぱいにしなさい」そうはいうけれど,やってみなくても,籾のはいった三つの甕に(殻を取った)米をいれても,いっぱいになるわけはない。けれども大師の命なので,命じられるままに,わが八字の拙さを嘆きつつ,座して一粒二粒とむきながら,辺りをながめていると,無情の眼はうとうととする。すっかり眠りこんでいると,玉皇の地のあらゆる鳥たちがみなやってきて,チュチュチュチュとついばんでむいてくれるではないか。ふと眠りからさめると,鳥が降りて米をついばんでいる。「この鳥ったら,ほんとにこんな小さな米つぶまでついばんで。さあおいき,ホー」追い立てると飛び去ったが,そのとき,籾殻はみな飛ばされ米だけが残ったのでした。甕に入れてはかってみると,ちょうどいっぱいになりました。これを法堂に差し出したけれど,寺というところはむかしから,夫婦では暮らさないところです。「どこにいったらいいですか」「ヨックン山(の仏道の地にくだっていきなさい」十王コブンヨンジルを通って仏道の地にそろそろとおりていきます(楽舞)。
     堂主,三十王まで枝が広がり,足が広がったか,天の堂主へつづく三十王の道を正そう(楽舞)

    灰かき三兄弟が母の地におりていく

     仏道の地にくだっていくと,9月8日になっていて,「ああ,おなかが,ああ,おなかが,ああ,おなかが」産み月になったのでした。父親のいない出産でした。母親の左の脇から生まれたのは息子です。水桶で水浴びをさせ,兄弟を寝かす揺篭のなかに寝かせ,ワンイチャランと(子守歌を)うたってやります。18日になると,また子供がうまれたのでした。これも息子です。水桶で水浴びをさせ,兄弟を寝かす揺篭のなかに寝かせ,ワンイチャランとうたってやります。28日になって,「ああ,おなかが」,母親のみぞおちのあたりから出てくるものをみると,男の子でした。 水桶で水浴びをさせ,兄弟を寝かす揺篭のなかに寝かせ,ワンイチャラン(とうたってやります。この子供たちの名前をつけるに,8日の子はポンメンドゥ,18日の子はシンメンドゥ,28日の子はサラサルチュクサムメンドゥとなづけたのでした。7歳になると,書堂に文章をならいにいき,3千の儒生とともに,一度に書生となりました。灰かきとしてはいりこみ,硯の水汲みとして住みこみます。こまごまとしたことをやってのけます。水汲みとして住みこみます。15歳になると,上試官での科挙の試験を受けに上京します。上京する途中でいじめられ,「梨の木に梨がたわわに成っているから,あれを取ってきたらいっしょに連れていこう。さもなくば,おいてけぼりだ」狭いところに上らせておいて,三千の儒生は逃げていきます。梨の木の持主がこれを夢にみます。夢にはきっといわれがあるのだろうと,ともし火を携えて外へ出てうかがってみると,夢のなかにいた子どもらが泣いているので,袴の紐を解いて梨を下に落とさせ,「おりてきなさい」おりてくると,日はとっぷりと暮れて,都の東門,西門,南門は閉まっていてはいることができない。しばらくいって角を過ぎると,小豆粥を売るお婆さんがいて小豆粥を売っているので,これを一椀ずつ買い食いしてひもじさをしのぎます。お婆さんが,かれらの文をみると,なんと天下一のすばらしさ。 「文章が書けるなら,うちの息子が上試官で親筆だか通引にだかなっているから,わたしてあげよう」こういうので「ではそうしましょう」文章を書いて差し出すと,三千の儒生らは「これはだれが書いたのか」返事をする者がいません。客たちがいうには「それを書いた者は城の外にいます」「東門を開けろ。西門を開けろ。南門を開けろ。一に官奴,二に妓生,いってこちらに連れてこい」連れてはいっていくと,「これはお前が書いたのか」「わたしが書きました」「もういちど書いてみろ」書いてみれば,天下一の文章です。たちまちのうちに東方及第させてもらいます。一に官奴を引き連れて,二に妓生を引き連れて,青い日傘を差させて下ろうとすると,いつの世にもこころねの悪い,ねたみをする者がいるもので,これが密告していうには「両班の子には科挙を許さず,坊主の子には科挙を許すのですか」こういうので「どうしたらわかるのか」「到任床や待令床を準備してください」用意をすると,青根と清甘酒だけ口にしていくので,「あれをごらんください。坊主の子だということは明らかではありませんか」科挙に落第させられ,くだってくると,三千の儒生らが「延秋門を壊してみろ。壊してみろ」。そのとき,(三兄弟は)宮兵の溜まり場に飛びこんで,千斤の弓をもらい,一度射ると,上の梁の的に50本のうち25本も射当て,あっというまに壊すので,「これはなるほど正直で,賢い者たちだ」ふたたび科挙に合格させられ,官属を引き連れくだっていくと,三千の儒生らは先にくだっていき,息子の犯した罪により母親を捕え殴り,縛っておいて,水禾紬の下着 だけ着させ棺に入れ,これを運んで仮埋葬したのでした。 (儒生らは)侍女に命じて「お前の主人に訃報を伝えろ」「では,そういたしましょう」(チョンハニムが)アイゴと泣きじゃくってのぼっていくと,三兄弟が科挙の試験を受けておりてくるときで,「みなさま,科挙どころではありませんよ。お母さまはすでに亡くなられ,前の畑に仮埋葬をしました」「これはなんのいいぐさだ。一に官奴も帰っていけ」二には妓生,三献官俗,六房下人もみな送り帰しておいて,弔旗 を受け取り,笠(プンドンコッリプ。未詳)をかぶり,杖にする木があったので,一枝ずつ折り取り,杖ついておりていくと,小さな蛇が道を横切り,鎌首をもたげ左に右に振りつつとぐろを巻く。堂布,寺布に堂主への宮布,アサン神布,両宮上主布,青い蛇,白い蛇,とぐろを解いた蛇,とぐろを巻いた蛇を準備してくだっていく。「お母さんの前生でもみよう」と,上の板を剥いでみると,ムルメンジュ(水明紬)とタンソクコッ(下着)ひとつしか着ていない。母を抱きかかえ,チョンハニムをよんで,「わたしたちの母の行き場所を探し当てよう」といって,「先に立って,母の家のあったところを教えなさい」「では,そういたしましょう」灰かき三兄弟は母の家のあったところへおりていきます。(楽舞)
     堂主,三十王まで枝が広がり,足が広がっていきます。天の堂主へつづく三十王の道をも正そう(楽舞)

    黄金山朱子先生のいるムナム山にそろりそろりとのぼっていく

     (三兄弟が)母方の祖父母の家にはいろうとすると,むかしは嫡子,庶子の別がひどいころで,僧の子であってみれば,いくら両班の家の外祖父を持っていたとしても,両班と僧の区別があり,大門からはいっていこうとすると,「お前たち,坊主の子がなんだってむやみやたらに両班の家にはいろうとするのか。百歩さがってひかえろ」おめにかかるための筵を出してくれます。そこにひざまづき,あいさつを申しあげると,「お前たちの父親は黄金山トダンの地の朱子先生だ。父親を訪ねていきなさい」こういうので,「ではそういたします」でかけようとすると,「お前たちのひれ伏した,布袋でこしらえた筵をそのまま置いていくのか。われらが両班の家の風にはなじまない。それもともに持ち去れ」そういうので,やむなく拝謁のための筵を携えて黄金山はムナム山に向かってそろそろとのぼっていきます。(楽舞)
     かつて母親も座ったあとがあり,父母子息が同じところで顔を合わせたのでした。
     堂主,三十王まで枝が広がり,足が広がったか,天の堂主へつづく三十王の道を正そう(楽舞)

    開天門の橋

     黄金山にのぼり父親にあいさつを申しあげたところ,「お前たちは天をみつつきたから,空の意味の天の字と,地をみつつやってきたから,土地の意味の地の字と,またオッレ(入り口)を通ってきたから,オッレの意味の門の字がふさわしい」父親におめにかかって得た印の物,開天門(硬貨)をば橋として棚に載せよう。(楽舞)
     えー,堂主,三十王まで枝が広がり足が広がったか,堂主三十王の道をも正そう(楽舞)。
     父親におめにかかって得た開天門は,おお,十王さまの前にさしあげよう。トンドドク

    明斗探し3:開天門

     梁昌宝:またもや,まただ。
     李忠春:なくしてしまって。
     梁昌宝:ほんとにおれってやつは手に持って歩いていたのになくしてしまって。ほんとに,おれはだめなやつだな。
     李忠春:よくなくすやつだ。
     梁昌宝:まったくな。
     李忠春:なくしてしまって歩きまわってるのか。
     梁昌宝:どこかにいくと,必ずなんか紐ひとつでも落としてくるんだ。
     一同 :(笑い)
     李忠春:それじゃ,呉方健の嫁さんとそっくりだな。
     梁昌宝:うん,そうだ。
     李忠春:それなら,なんでもいいから,ひとつ置いていったらどうだ。
     梁昌宝:そうしたら,おれ,歩けなくなっちゃう。
     韓生昭の妻:紐のひとつでも道に落としていかなくちゃ。
     梁昌宝:紐ひとつでも落としていくだって?
     李忠春:ところで,何をなくしたってんだ。
     梁昌宝:えっ?
     李忠春:どんな物だ。
     梁昌宝:うまくいえそうもないな。
     李忠春:いってみろよ,何に似てるんだ?
     梁昌宝:このおばあさんにきいてみよう。おれがさっき持っていたものは何に似ていましたか?
     首神房:知らないよ。
     呉方健:ゼニに似ていたよ。
     梁昌宝:えっ?
     呉方健:ゼニに似たものだ。
     梁昌宝:そうだ,近づいたぞ。
     首神房:まあたばこでもすいなさいよ,わたしがいってあげよう。
     李忠春:占い道具に似てる物?
     梁昌宝:うん,そうだ,だんだん当たってきたな。
     李忠春:真ん中に穴の開いてる物。
     梁昌宝:ほとんど当たりだ。
     首神房:そりゃ天門のことだ。
     梁昌宝:あっ,天門というんだったな。
     李忠春:図星だ。
     梁昌宝:アイグ,お前さん知っていたんだな(といいつつ,しきりにたたき,うたうように)アイグ,知っていたんだな。
     李忠春:祖上はそこにいたのか。
     一同 :(笑い)
     韓生昭:アイゴ,ユンスのところから盗んでいこうとしたんだな。それを取られていってしまったら,おれたちはやることがなくなっちゃう
     梁昌宝:アイゴ,アイゴ,ほんとうにそのとおりだ。そのとおり。あの天門はだれのものだ。
     李忠春:何かで,代わりのものを作っていったらどうだ?
     梁昌宝:それを持っていかなかったら,怒り心頭に発してたいへんなことになる。貞子よ。こっちへきてみなさい。おい,貞子。本主もこっちへきなさい。いや,李貞子だけくれば,いいよ。ほら,逃げないで。このクッももう最後なんだから。
     李貞子:はい。
     梁昌宝:こうしておいて,返してやらなかったら,みなさん,ごらんください。
     李忠春:その夫婦をみてごらん。
     梁昌宝:亭主はどこに?
     李忠春:亭主のやつがどうしたって?
     梁昌宝:あれは腹をたてると,あやまろうが何しようがたいへんだ。
     李忠春:許すどころじゃない。なんだろうと手当り次第ほん投げてしまい。
     梁昌宝:口より先に手が出て。腹をたてるとまずこぶしを振り回して,人をおこらせ,あとから,すまなかったというやつだ。
     李忠春:その,むかししでかした間違い,みんなもわかってるよな。とんでもないやきもちやきで。
     梁昌宝:というわけで。
     李忠春:ほら,あの,なんだ,さざえ。あの,ほえ立てるやつバルバリ,うーん,その,あがいてほえ出したら,ワンワンワンと,アイグ,なんていったらいいか。
     梁昌宝:ああ,いい物がある。
     李忠春:なんだい,そりゃ。
     梁昌宝:海へいって,さざえをひとつ拾って,いやふたつだ。それを持って帰って煮て中身は。
     呉方健:食ってしまい。
     梁昌宝:うん。酒を一杯,ぐっと飲んでつまみに食ってしまって,そうだ,さざえはあの黒いのも頭のところもうまいんだな,これが。
     李忠春:たしかにうまい。
     梁昌宝:そのさざえをむいて,皮は捨てて,蓋のところはなんていうんだっけ?
     李貞子:殻!
     梁昌宝:ああ,殻だ,そうそう。それを持ってきて,それに釘をひとつ取りだし,その真ん中に字を書くんだけど,空の天とか入り口の門とか,書くまねをして,スンドクやミドクにやるのさ。受け取らなかったら,大声で「この態度は何だ?」といってやり。
     呉方健:それだったら,なんだっていいから代わりの物をやればすむんじゃないか。
     梁昌宝:「アイグ,こりゃ何だい」というなら,そうしてやるというわけさ。
     李貞子:ほんとにまあ,わたしたちには,もとの物を返してくださいね。
     梁昌宝:そういっておいて,小さな柄杓のような爪でガリガリと引っ掻いて,塩をさっと塗って,南風の方へ向けて放り出してやる。

    ウッラングクポムチョナン(鼓),テジェギム(太鼓),ソジェギム(小鼓),サムドンマギ・サルチャンゴ(杖鼓)の橋

     ああ,この開天門も役に立たない道だ。朱子先生は長男をよびつけて,また三兄弟をよびつけて「お前たち,お前たちの母親は玉皇上帝のところにいて獄に閉じこめられているから,お前たちが神房となり,お母さんを救いだす道を示してやりなさい」こういうので,「では,そういたします」灰かき三兄弟は神仙谷にのぼり,柳の木を切り,鼓の胴にし,杖鼓をこしらえ,鼓もこしらえ,太鼓もこしらえ,小鼓もこしらえ,音のいい杖鼓もこしらえて,十王コブンヨンジルへと,鼓,太鼓,小鼓,音のいい杖鼓までも橋としてかけよう(楽舞)。
     三十王まで枝が広がり足が広がったか,えー,天の堂主,三十王の道をも正そう(楽舞) 鼓,太鼓,小鼓,音のいい杖鼓は,えー,十王さまへ差し上げよう(このとき,梁昌宝氏は杖鼓を持って十王の棚の下に隠した。そして座ってはなしはじめた)。

    明刀探し4:太鼓,杖鼓,銅鑼,鉦

     李忠春:うーん,これはたいへんなことになった。
     梁昌宝:うん,たいへんなことになった。
     李忠春:今度はほんとうにたいへんなことだ。
     梁昌宝:これはたいへんだ。(そばで記録している者に)こんなこと書いておかないでくれよ。
     李忠春:いやあ,こりゃ,おおごとだ。その,なくしてしまったもののことだが,ウニを取って中身をえぐって。
     梁昌宝:うん。
     李忠春:カジメの茎を取ってきて,それをくっつけてやって。
     梁昌宝:おれ,もう座ってもいいだろう,えっ?
     李忠春:また撥もなくしてしまったというなら,そしてどうしようもなければ,朝天邑キョネリの金座首の家にいって。
     梁昌宝:大竹を節ごと切り取って。
     李忠春:事情を告げて。「お爺さん,どうでしょうか。あの,なんですが,大竹の根をひとつ,ふたつください」といって,それで撥を作って,渡し,天門のごときもなくしてしまったら,さざえの皮を取って,むいて,やり,さて,今度はまた,一体,何をなくしてしまったってのか。
     梁昌宝:ああ,こりゃ,とうとういわなくちゃならないのか。秘密はばれてしまったから,いおうか,いえば,こっぴどく叱られそうだし。
     首神房:杖鼓じゃないのかい,それは。
     梁昌宝:あ,またおこられるんだな。
     首神房:音の出るもの,音の出るものだけど。
     梁昌宝:アイゴ,それじゃ,ウッラングク(巫楽器)についてひとつ順にゆっくりとはなしてみようよ。
     首神房:はなしすぎれば,疲れるばかりというけど。
     梁昌宝:カネ持ちの家にいくとね,麦がみのれば麦を,秋になって穀物がみのれば,それを刈っておき,さてしごくとき,その大粒のは上に置き,小粒のものは下に置き,さっとしごくんだな。そしてそれを,その入れ物に入れるんだけど,あれは確かテヤン(鉢)というんだったな,このごろではきけば,カネ持ちの家というと,以前は真鍮のテヤンがあったけれど,このごろではアルミニウムのテヤンなどを使って。
     李忠春:うんいっぱいあるぞ,テヤンは,
     梁昌宝:テヤンはいっぱいあるから,(銅鑼を作るのは)問題ない。カネ持ちのところへいくと,ごはんを盛る器でナンプンというのがあるから,これを取って,釘で穴を開け,そこに藁で編んだ縄を通してねじっておいて,ソルセ(鉦)を作るんだけど,真鍮の器がなかったらステンレスの器を持ってきて。
     李忠春:通政大夫の官職を経た家にいって?
     梁昌宝:うん。
     李忠春:通政大夫の官職を経て,カソン大夫の官職を経た家にいってみれば,そんなものはたくさんある。
     梁昌宝:そうとも。
     李忠春:それに,そこにいくと。
     梁昌宝:パンサンギ(一揃いの食器)というものが。
     李忠春:ああパンサンギね。そんなものはいっぱいあるぞ。大きな宴をする家があるときいたら,ものもらいする乞食に扮していって,主人がすっかり準備をした時分に,さっと台所へはいっていき,おもいきって。
     梁昌宝:掠め取って。
     李忠春:懐に入れてきて。
     梁昌宝:懐に入れてきて。
     李忠春:三十六計を決めこんで。
     梁昌宝:うん,そしてそれを(鉦として)渡してやり,そしてまた杖鼓のことだが,どこかチェサ(祭祀)のある家にごちそうにあずかりにいって,むかしの丸い器,ありゃよかったな,あれがあればいいけど,木のお盆でもいい。
     李忠春:それなら,うちにもあるぞ。おれのうちの祭祀の日は十二月の晦日だ。
     梁昌宝:このお方のうちにいって掠めてくりゃ,いいわけだ。
    [会話]

     李忠春:子(ネ)の時に。
     梁昌宝:子の時に?うん,そうか,祭祀の家にいって,木の盆にものを盛ってあるようだったら,あいさつをするふりをして,さっとさげるふりして,ふたつ,掠めてきて。
     李忠春:そうそう門前神の膳。むかしは,この膳をよく掠めたものだ。窓をそっと開けて。
     梁昌宝:そうっとあいさつをして,膳をさげておいて。
     李忠春:犬がほえたてるようだったら,麦の餅をひとつやり。
     梁昌宝:だまらせておいて,そうしてその盆を取り,底をぴったりと合わせると,ちょうど杖鼓の大きさになるよ。
     李忠春:ちょうど同じくらいだ。
     梁昌宝:そうして次にカジメを取ってきて張りつけ,碓つきの店にいき,紐にし,その紐でしばるようにし,またワカメをもってきて,これを少ししならせて張り付け,またどこか,そうね,よく出入りする家にいって,このごろは割り箸といってるもの,そう,箸のようなもの,これを撥にして,金氏と李氏の者(本主夫婦)にあげて,それでも受け取らなかったら,こっぴどく叱ってやり,小さな柄杓のような爪でほっぺたをガリガリと引っ掻いて。
     李貞子:ほんとうにまあ,けっこうなこと。小さな柄杓のような爪で引っ掻くなんてこと,してもいいんですか?
     一同:(笑い)

     梁昌宝:引っ掻いておいて,塩をさっと塗って南風の方へ向けて,ほーといってほうり投げてやったのさ。そうして

    算盞・天門・神刀を十王の棚に上げる

     そればかりか,玉皇上帝のところからチョン・ジョンノク(巫具を作る者)がおりてくる。東海の鍛冶屋の息子をよんで, えー,小さな坩堝,大きな坩堝を借りて,「ふいごをふーと吹いた」のでした
    [算盞などを棚に上げる]
    ポンメンドゥ(揺鈴)もこしらえろ,シンメンドゥ(神刀)もこしらえろ,父親のくれた天門だ,母親のくれた算盞だ。
     ああ,両班を切る刀としては七十五尺,中人を切る刀としては三十五尺,下人を切る刀としてはただの一尺をこしらえたのでした。算盞,天門,神刀も十王さまにさしあげよう。(楽舞)

    明斗探し5:神刀

     李貞子:あれ,みてください。あれ,みてください。
     李忠春:おい,あげるんだったら,あれもいっしょにあげろよ。
     梁昌宝:うん。あげたよ。あーあ,あーあ,十王の前でなくした,なくしちゃったよ。どうしたらいいんだ。神刀は何で作ろうか。朝天でたくさん作ったから,それをひとつ持ってきて。
     首神房:竹の刀でもかまわないよ。
     梁昌宝:竹の刀?それで鞘のほうは豆をひとつ取ってむいて食べ,その殻をふたつそろえてわたしてやり。
     李忠春:ひとつ残ってるけど。
     梁昌宝:ああ,ああ,布でしばっておけば,神刀としてはいいだろう。

    胸背冠帯,冠の紐,藍色の緋緞,赤い快子,錦の衣で作った玉の帯の橋

     そうして,これをわたすけれど,これも使えないといいます。そこで長男をよんでおいて「上試官のところで科挙を受けたとき,何がもっともこころよかったか」「布で作った旗(?)がもっともこころよかったです」「チョガムジェをしなさい」二番目の息子をよんでおいて「何がもっともこころよかったか」「胸背冠帯(官服)がこころよかったです。冠の紐もこころよかったです。藍色の緋緞,赤い快子もこころよかったです。錦の衣で作った玉の帯もこころよかったです」そこでこれらを作ったのでした。紅牌冠帯,冠の紐,藍色の緋緞,赤い快子,錦の衣で作った玉の帯も橋とし掛けてうたいつつ,いこう。(楽舞)
     三十王まで枝が広がり足が広がっていく。天の堂主へつづく三十王の道をも正そう(楽舞)。

    藍色の緋緞,赤い快子,錦の衣で作った玉の帯を十王にさしあげる

     えー,冠の紐,藍色の緋緞,赤い快子に錦の衣で作った玉の帯を,えー,十王にさしあげよう。(楽舞)

     李忠春:大お母さん(首神房)はどこへいったんだ。寝てるだって?服を一揃い出しておいてくれといったのに,どこへいったんだ。
     李貞子:服を脱いだまま,いればいいでしょう。
     呉方健:今着ているもの,それだけでも,いいじゃないか。

     幅の広い黒い帽子を出しておいて,膳の上において(?),十王さまへお供えしよう。

    明斗探し6:巫服

     李忠春:ツルマギ(外套)も脱いだらいい。
     梁昌宝:これを着ようとおもうと,めんどくさくてね。
     李忠春:いや,めんどくさいっていうけど,何だってまた,高メンソン神房が生きていたときのように,足をむき出しにして,すっかり脱いでしまって,だれをやっつけようというんだ。一度,ほら,あの,新村にいって金グヮンスというやつと相撲をやってみろよ,庭に筵を敷いておいて。
     梁昌宝:ふん,あの金グヮンスのやつ。
     李忠春:ばしっと一蹴りすれば,やられっこないよ。あの城内(市内)の小さな役礼(神クッ)にいってね。相撲を一度やってみたらどうだ?どっちが勝つか負けるか。どっちが兄貴分か,どっちが舎弟か,どたまをひっつかんで。一度。
     梁昌宝:どっちが兄貴分か,どっちが舎弟かといってやるなら,おれが勝つさ。
     李忠春:あの,安トゥルエと一度やってみろよ。
     韓生昭の妻:安トゥルエは今,死にそうなんだけど
     梁昌宝:安トゥルエなんかを3人ひとまとめにしたって,とても李忠春ほどの重さはないだろう。
     李忠春:そうすると,安トゥルエがねてるのか。やい,お前,こいつめはどこに寝てるんだ。ハイカラな頭を枕にして。(梁昌宝に)おい,板の間でどたばたしてみろ。これでも寝ていられるのか。
     李忠春の妻:ふん,わたしは平気だよ。
     梁昌宝:この鳥はやっぱりただもんじゃないな。
     李忠春:こいつ?
     梁昌宝:うん。初更の鳥,二更の鳥がよく鳴くんだ。
     李忠春:一度,鳴いてみろよ。 
    [横になる。そばからひやかす]

     梁昌宝:おれが横になって寝こんだら,起こしてくれよ,いいかい。(李貞子に向かって)「めん鳥が鳴いたら,夜が明けない」っていうからな。
     李貞子:えっ,何?
     呉方健:イイイ
     梁昌宝:鳴けよ,コケコッコと鳴いてみろよ。
     李貞子:ふとんを持ってきましょうか。
     李忠春:コケコッコ,ああ,あの鳥の声ったら,ばかでかいな。(鉦のテンテンという音)
     梁昌宝:ユーアンプシャーのようだぞ。
     呉方健:いいや七面鳥,七面鳥だ。
     李忠春:コケコッコ。
     梁昌宝:ちぇっ,もう夜が明けたのか。
     李忠春:起きなさい。
     梁昌宝:何だって?
     李忠春:起きなさい。
     梁昌宝:準備はできてないのか。
     李忠春:準備はできてませんが,起きる時間になりましたよ。
     梁昌宝:今,支度してるところか。
     李忠春:はい。
     梁昌宝:張スングン(亡き神房)みたいだな。
     李忠春:いや許ジョンファ(亡き神房)のようだ,身の振る舞いをみると。きっぱりと起きたら。
     梁昌宝:きのうの晩,一杯やったので。
     李忠春:きのうの晩,どこへいって飲んだんだ?
     梁昌宝:(酒に酔ったふり)あそこへ花札でも配ってくれ,寝ぼけ眼があかないぞ。
     小巫:起きなさいよ。
     梁昌宝:札を配ってくれ,寝ぼけ眼があかないぞ。顔を洗う水を汲んでこい。
     李忠春:しっかりしろよ。
     梁昌宝:顔を洗う水を汲んでこい。
     呉方健:あれをやれ,これをやれって?お前たち,クッをやることができるのか。ああしろ,こうしろだって?
     梁昌宝:顔を洗う水汲んでこないのか,このどん百姓めが。
    [二日酔いの朝]

     李忠春:目の前に汲んでおいたけど。
     梁昌宝:汲んであるのか。
     李忠春:酒がまだ切れてないんだな。
     梁昌宝:手拭はどうした?持ってこいったら。山形帽をくれ。おい,杖鼓をここに置けよ。撥をこっちに遣してくれ。
     李忠春:ほんとにまあ,ばかでかい声だ。
     梁昌宝:何ていうんだっけ,チョガムジェでは?
     李忠春:チョガムジェ?
    [チョガムジェのまね]

     梁昌宝:天地が混−えーと,あのカムルゲに住む神房は,クッをはじめようとするときは,「天地の間の混沌から申しあげよう」と。(杖鼓をたたくまね)クンタク,クン(泣くまね)。アイグ,アイグ,アイグ(泣くまね),アイグ,アイグ。
     李忠春:泣いたってだれもわかっちゃくれない,どうしようもないね。
     韓生昭の妻:なくしちゃったんだから。
     梁昌宝:こりゃ,どうしよう。今や,なんにもなくなっちゃって。すっからかんだ。
     李忠春:だからいわないこっちゃない,さっきチョガムジェをやるときから,いっておいただろうに,服はちゃんと別に支度をしておけと。
     梁昌宝:アイグ,よし,こうなったら,何だろうと着るぞ。
     李忠春:おれだから,考えてやるんで,だれが考えてくれるか。
     梁昌宝:生まれたから,考えているんで,生まれてなけりゃ考えられるものか。
     李忠春:考えというものを軽く考えるなよ。
     梁昌宝:軽くて考えても,どのみちおんなじさ。こうなったら,どっかへいって,ズボン,股引きでもひとつ借りてクッをしなくちゃ。アイゴ。
     李忠春:ええと,あの。
     梁昌宝:下着。
     李忠春:今度の漢L文化祭で,ヨンガムあそびをするときに,着た服でも貸してもらって,ちょっと借りて,やったら。
     梁昌宝:うん,それを借りて,アイゴ,それをちょっと貸してくれよ。
     小巫:はい,はい。
     梁昌宝:脱いでくれ。それ,ちょっと貸してくれ。クッをやらせてくれよ。なあ,頼むよ,これ貸してくれ。(笑い)
     小巫:何を借りようというんです。
     李忠春:はっきりいえよ。どれを借りようというんだ?
     梁昌宝:足を入れてみてはいったら,着るつもりだ。
     一同:(笑い)
     李忠春:それ,ちゃんといえよ。借りようとしているのはチマ(裳)か,チョゴリ(上着)か,ポソン(足袋)か何なんだ。
     梁昌宝:まずポソンから借してもらおうというわけだよ。
     李忠春:ハンなのかタンジなのか
     梁昌宝:いいや,チョゴリだ。
     李忠春:いや,こういってるんだよ,キムさんがね。チョゴリもくれるしポソンも,チマもくれるし,ハン(甕)もくれるというんだけど,タンジ(小甕)はだめだというんだ。
     梁昌宝:水桶は。
     李忠春:タンジはくれないというんだ。 
     梁昌宝:アイグ,それじゃ,どうしたらいいかな,そうだ,おれといっしょに,占いのところにでもいって,占ってもらおうや。

    占い1

     李忠春:わけをはなさなくちゃ,占いをしてもらえよ,占いをしなくちゃ。
     梁昌宝:どこへいって?
     李忠春:あの,南門路はどうだい。秦を名のる人(首神房)がいるんだけど,この人はね。
     梁昌宝:天文に通じている?
     李忠春:天文に通じて地理にも通じていて,四十四のときから,はじめたというんだけど。
     梁昌宝:だれが?
     李忠春:四十四のときからはじめたというけど。
     梁昌宝:はじめたと?その年で,それはそれは。
     李忠春:父方にも,母方にも神房はいないんだが。
     梁昌宝:へえー。
     李忠春:父方にも,母方にも神房はいないんだが。書見祖先がほんとうに霊気のある祖先であるため,その祖先から霊気が表れたのか,四十四のときに神房となったんだと。
     梁昌宝:ほーう。
     李忠春:占いがじょうずだというよ。
     梁昌宝:うん,それでそこのうちへいこうとおもうんだけど,通路を通って。
     李忠春:オッレを通って,庭に。
     梁昌宝:庭にはいっていくと,そこに大きな犬がいて。
     李忠春:うん,大きな犬がいるよ。
     梁昌宝:えー,もの知りのせんせいはいますか。
     李忠春:わたしはここにいるよ。
     梁昌宝:もの知りのせんせいはいますか。
     李忠春:この犬だよ。
     梁昌宝:うわー,この子犬が?
     李忠春:この犬だよ,この犬。
     梁昌宝:それじゃ,こいつはキム・子犬というんだな。うわー。
     李忠春:ワンワンワン,この犬だよ。
     梁昌宝:こいつめ。起きろ,起きろよ。起きろってば。人の主が犬だって,そこにいるのは動物みたいだぞ(?)
     韓生昭の妻:死にそうなんだよ,痛くて。
     梁昌宝:前がたくさんだというなら,うしろに押せばちょうどいいじゃないか
     韓生昭の妻:だから真ん中に座ってるのよ。
     梁昌宝:座ってる?ああ。実はね,おれは年は二〇,二〇,三かける二〇,併せて八〇と一〇なんだよ
     首神房:一〇歳だって。
     梁昌宝:おれの名前はぼんくら氏で。
     首神房:ぼんくら氏だって?
     梁昌宝:そうなんだ。ぼんくら氏といって,今年は丙寅の年(1986年)で。
     首神房:丙寅の年で。
     梁昌宝:おごそかな9月11日から今日24日まで,クッをしてきて,なくしてしまった,なくしてしまったんです。一千の器徳,三万の祭器,宮殿宮楽つまり巫具をすべてなくしてしまったんです。それで,ごぞんじでしょうから,占ってもらおうと,きたんですから,その,占いの卦に出るままにいってください。
    [首神房との対話]

    こんな,うっとうしいことが,どこにありますかね。
     首神房:さあ,どこにありますかね。
     韓生昭の妻:そういうけど,うっとうしいのはあんたで,わたしじゃないからね。
     李忠春:なんだって,(笑いつつ)この占い師め。
     梁昌宝:いかにも,おれがうっとうしいので占い師のような者をたずねてやってきたんだよ。
     首神房:占い師のような者にきこうとおもってきたというけど,あんたのうちがうっとうしいというのは,それはそっちの事情で,うちにも事情があるからね。
     梁昌宝:こんなことをいわれるんだったら,なんだってカネを持ってこんなとこまできたんだろう,あーあ,もの知りのせんせいを訪ねてきたつもりだったけど,占い師のような者に向かってせんせいなんていったんだけど。
     首神房:ご苦労さんだね。
     梁昌宝:えっ?
     首神房:ご苦労なことだね。甲子乙丑宮女華燭というからね。
     梁昌宝:というから,何なんですか?
     首神房:というから,うん,それは世耕の地を通って門前の方にか,門前から世耕の方にか,どっちかだね
     梁昌宝:門前から世耕の方にか,だって?どうもこりゃ,確かに近づいているようだな。はじめっからいってくださいよ,門前なのか世耕なのか。
     首神房:門前なのか世耕なのか,だって?世耕の地を歩いて門前の方にはいっていったはずだよ,なんといったって。
     梁昌宝:それで,出ていくときは?
     首神房:出ていくときは門前から出ていくさ。
     梁昌宝:うーん,こりゃほんとに占い師だ,なるほど。
     李忠春:よく知ってるだろう?
     梁昌宝:ああ,ようく知ってるな。アイゴ,お母さん,アイゴ,お母さん。
     一同:(笑い)
     梁昌宝:アイゴ,お母さん,ようくごぞんじですね,ようくごぞんじですね。

    占い2

     首神房:ほかのところへいってもう一度きいてごらん。
     李忠春:もう一度きくだけじゃだめなんだけど。
     梁昌宝:うーん,じゃ三カ所にいって卦がひとつになれば。
     李忠春:城内にいったら,どうかな?城内にいったら?
     梁昌宝:タバルにいこうかな?
     李忠春:いいや,ちっちゃなクッをやるところがいい。
     梁昌宝:ちっちゃなクッだって?
     李忠春:ちっちゃなクッにいくと,いいね。
     梁昌宝:ああ,それで三カ所というから,もうひとつなんだけど,三カ所にいこうとしたら,えーと。
     韓生昭の妻:それだったら,あの杏源の李判官のところへいったらいい。
     梁昌宝:李判官のところへいけって?
     韓生昭の妻:もの知りだよ,もの知り。
     李忠春:いや,なんていっても日本からきた人はどう?
     梁昌宝:そうだな,それはもっといい。
     李忠春:うん,日本からきたキム氏のところへいってみな。
     梁昌宝:大阪でも占いが上手だと評判だし,うん,そこへいこうとすると,ここからタクシーに乗り,飛行場にいって飛行機に乗って,大阪についたら,またタクシーだかクルマだかに乗り,まあ,座ってください,今はなしますから,そうそう,そこへ座ってください。タクシーに乗って,生野区ノモダニ(桃谷)。
     李忠春:大阪市。
     梁昌宝:大阪市生野区桃谷(ノモダニ)。
     日本の神房:ノモダニ。
     李忠春:ノモダニ。
     日本の神房:(日本語で)4丁目4の16。
     李忠春:4の16のあそこだ。
     梁昌宝:うん,あそこだ。サイシュートーから飛行機に乗ろう。ブルルン。タクシー,クルマに乗りました。そしてノモダニにいきました。あの,アイグ,もの知りのせんせいいますか。
     呉方健:神房占い師はいますか。
     日本の神房:どちらからきましたか。
     梁昌宝:わたし,ダイカンミンコク。
     日本の神房:そのナカノ,ミナミサイシュートーノ。
     梁昌宝:ミナミサイシューデナイ。
     呉方健:コッコッコといってるから,鶏だ,雄鶏だ。コッコッコだなんて。
     梁昌宝:それで,うわさをきいて,人にききながら,ああ,ほんとに占いをする人がなくて,訪ね訪ねしながら,とうとう日本まできてしまいました。
     日本の神房:はあ。
     梁昌宝:アイグ,そのノモダニの,日本の犬のほうがもっと猛だけしいですね。
     李忠春:韓国の犬よりももっと猛だけしいよ。
     梁昌宝:アイグ,日本はシェパード。こんなに大きいの,漢L山ほどの。人が近くにいくと,ウーウーと,人を追いたてるので,ほんとにどきどきしたけど,それはそうと,丙寅の年の9月11日からクッをはじめて,今日までになったけど,巫具をなくしてしまいました。わたしは名前は,はい,ぼんくら氏と申します。
     日本の神房:はあ。
     梁昌宝:わたしの年は二〇,二〇,三かける二〇,つまりおよそ五千歳。
     日本の神房:千歳?
     梁昌宝:はい。そうして,アイグ,その紛失物,へたにいうと妙なことになるけれど,いやなことだから,そっというんだけど,どろぼうに盗まれたのでやってきました。そういうわけですから,ぜひ盗っ人占いでもしていただきたいんです。
     日本の神房:盗っ人占いはだれにでもできるもんじゃないよ。
     梁昌宝:アイグ,座って,手相でもみながら。
     李忠春:済州ではだれも「やってやろう」といってくれないので,ぶったたかれたくないというので。
     梁昌宝:そういうわけで,だれも「やってやろう」といってくれないので,こうしてやってきたんです。耳障りなこと,きいてうれしいこと,どんなことでもきこうとおもってやってきました。いってください。
     日本の神房:何をなくしたの。
     梁昌宝:アイゴ,ほんとにクソったれめ,クッをしにいこうとするときは,何を持っていくかといえば,太鼓,神刀,杖鼓,鼓を持っていくけど,これを持っていって全部なくしてしまったので。
     日本の神房:はっはー,みんななくしてしまったの。
     梁昌宝:なくしてしまったので,アイゴ,だれが持っていったのか,どちらへいけば,いいのか,どこへいって埋めたのか,それだけでも教えてもらおうとおもってきました。こんなわけで頭が痛くてきたんですから,けっしてぶったたきません。
     李忠春:わからなけりゃ,ぶったたくだろうけど。
     首神房:わかれば,ぶたないというわけだ。
     日本の神房:あっちへいってごらん,あの海の方北側へいってごらん。とにかく,泥棒は盗もうとしたら,門前からはいり,出るのも門前を通っていく。そうしてぐるぐる回って,うん,海のある北の方へいって探し,すみずみまで探してごらん。
     梁昌宝:アイゴ,これはちょっと当たってるようだけど,わからないこともちょっとあるようだ。
     李忠春:もったいぶらないで,はっきりいってしまったらどうだ。
     日本の神房:ちゃんといってしまってよ,こうなったら。
     梁昌宝:アイゴ,門前から出ていったというのはどうも違ってるようですよ。アイゴ,そこへいってみたら,門前から出ていったというので,いってみると(海辺なので)ちょっと冷んやりとしていて,どこにもいくところがないんですけど。
     日本の神房:北ですよ。
     梁昌宝:北へいったとして,いったいどこへ埋めたんですか?
     日本の神房:どこだって,埋めるつもりになれば,埋められるよ。
     梁昌宝:十王の棚はクッをするイエのなかにあるんでしょう。
     日本の神房:あっ,そうか。
     梁昌宝:盗んで出ていくんだったら。
     日本の神房:外へいってしまうんじゃないの。
     梁昌宝:だからね,地のなかに埋めるほかに,埋めるところなどはないでしょ。
     日本の神房:それしかないね。
     梁昌宝:それだったら,世耕のところへといえばいいんですよ。
     日本の神房:世耕の地にいって埋めたんだ。
     梁昌宝:アイゴ。
     李忠春:アイグ,ようやくわかったね。いやはや,女の子をたらしこむみたいに回りくどかったな。
     日本の神房:はははは,そう,そうそう。わたしはお前さんが憎くてこうしたんじゃないからね。
     一同:(笑い)

    世耕神(農耕神)がチャチョンビ(女神)に頼んでコブンメンドゥを探す過程

     梁昌宝:占いをしたんですよ。そしたら,世耕の地に埋めたというから,世耕のとこへいってみよーと。いくにつけては,かっこうをつけ,もったいぶっていきましたら,姉さんが出てきました。「こいつめ,朝まだ起きてないうちから,なんだって明け方から駆けつけてきたの」「アイグ,姉さん」「こいつめは,いつも,いつも,うまいことばかしいう。あいつめのいうことには,笑うまいとつとめても,笑っちゃうし,会わないでいると会いたくなるけど,会うと腹が立って
     呉方健:会わないと「陰部をみたいし」。
     梁昌宝:「やい,こいつめ。何しにきたのか。きたわけをさっさといってみなさい,起きるのもめんどうだね」「アイグ,ほかでもないんです,丙寅の年,9月11日の朝10時から,あの新村のトンカルムにある金允洙のうち,李貞子のうちでクッをはじめて今日までになったんですが,今日は南郡の神房たちがやる番になったんですが,今日までクッをやっていて,なくしてしまったんです,すっかりと。一千の器徳,三万の祭器,宮殿宮楽つまり巫具をすべてなくしてしまったんです。アイグ,出ていくにしろ,門前が知っているし,はいってきても門前が知っているというので,門前のところへいったら,世耕のところへいけというので,世耕のところへきてみたら,アイゴ,姉さんのところなのでした」「アイグ,馬鹿なやつだね。こいつはただ,うす馬鹿みたいに歩き回っていて,すっかりなくしてしまったんだね」。
     李忠春:身売りするむすめっ子たちがしまりないように。
     梁昌宝:「アイゴ,そのとおりです。それはともかく,なりだけは大きくて,からだはすらっとして度胸もけっこうあるのに,歩き回ると,なくしてしまい,だらしなく」「(日本の神房の方へ向かって)どこへもいかないでくださいよ。おれは,なくしてしまったから,どうしたらいいんだろう」「アイグ,そうさね,座ってようく考えてみると,世耕のところへきて掘って埋めたにちがいないんだけど。これはお母さんの命令がなければ,出してやるわけにもいかず。どうしたらいいんだろう。そうだ,お前,じっとしていなさい。じっとしていたら,わたしが考えてやるからね。お母さんのところへいって,わたしがいえば,一度はききとどけてくれるだろう。どうしたってきいてくれるにちがいない」「アイゴ,ほんとうに今度だけは」「あれは訪ねてみてないの,金允洙は」「あれが,腕を一度振るったら,おれは生きてられないよ。アイグ,今度だけは,ほんとに。今度だけは,今度だけはお願いです」「エイグ,こいつったら。うまいこというので,きいてやらないわけにもいかず。それじゃ,どれ,起きてみよう。アイグ,さて,起きるとしよう。起きるとしよう。」アイグ,ところで何を着てるのか。片足だけつっこんで。それもよじって。いったい,なんて服を着てるんだろ。なんて服,あっ,こりゃ下着だ。アイグ,下着を着てるよ。「あーあ,外へいくのもいやだ」小便壷を今度は枕にして寝ているね。いやはや,服の紐を解いているぞ。あれ,みろよ,アイグ,小便壷の上に,なんとまあまたがってるぞ
     李忠春:小便するまねをしてみろ。
     梁昌宝:小便をするところ。(そのまね)しゃあ,しゃあ,しゃあ。
     李忠春:股ぐらはどう開いて座るんだ?
     梁昌宝:こうやって座るんだよ。こうすると,大笑いするだろうね,みんな。
     呉方健:(小便するまね)シーシー,小便するのはこんなふうか。
     李忠春:いやはや,夜明けの小便壷は調べを伴い,踊りがあって,ドタバタと世変乱離だ。
     梁昌宝:おしっこはした。さっと起きて服を着ますよ。あっ,女の下着を着てる。その上に着てるのはチョクサムだ。アイグ,あれは裳だ。上着も着たし。ああ,そして出入りの門を開けて出てくるぞ。アイグ,どこへいくんだろう。アイグ,納屋へ走っていくぞ。あの,宝箱を開けている。そして緑豆をひとつかみ取り出して。ほかの物を取り出すのかとおもっていたんだけどな。台所にいくぞ。ごしごしと洗い,おや,煮ている。煮て,ああ,今度は白い米をといで,これを粥にしている。さて,できあがったから,うん,白い器を取り出している。白い器を出しておいて,そうか,そのなかに入れている。そして,細長い竹の入れ物に盛りつけてぴったりと蓋をしてるな。そして,アイグ,起ちあがり履き物を取り,はいてるぞ。そして,通路のほうへ出ていく。さて,それじゃ,あとからついていこう(チャチョンビの歩くまね)。
     李忠春:うーん,ほんとにきれいだ。ほーう,こりゃ,べっぴんだ。
     韓生昭の妻:(肩や腰が)ゆらゆら,ゆらゆらと。
     梁昌宝:(姉に)お母さんを訪ねてきたんですか。「アイグ,ろくでなしのむすめが。ほんとに,明け方気持ちよく寝ていても,あのむすめがやってくると,きまってぞっとしてね」
     李忠春:いや,必ずなんかよくないことが起こるんでしょ。
     梁昌宝:よくないことが起こるんだよ。
     李忠春:とにもかくにも,なんかあったから,あのむすめがきたんだろ,そうじゃなければ。 梁昌宝:「あのろくでなしがきているから,わたしゃ,気がかりだ。アイグ,チンドンナルのなかに早くはいってきなさい。お前がくるとね,どういうわけか,たちまちからだがぞくぞくしてきて生きた気がしないよ」「アイゴ,お母さんったら。ねえ,お母さん,お母さん。わたしのいうこと,ちょっときいてよ」「なんだい。さっさとおいい。このむすめがあれこれ,うまいことをいうと,きっとよくないことが起こるんだ。だけどね,無い袖は振れないんだからね」「アイグ,お母さん。わたしのいうことをきいてみて。だけど,きいてくれるというなら,いうし,だめならいわないわよ」「いってごらんよ。いいことでも,いやなことでも,きいていられる話ならきくし,そうじゃないなら,きかないから」「ほかでもないんだけど,今年は丙寅の年で,9月11日に,あの朝天面新村里の
    [チャチョンビと母親の対話]

    金允洙,李貞子の家で神の道をただそうとして,9月11日からクッをはじめたんです。あの,一千の器徳,三万の祭器,宮殿宮楽をととのえ,首神房には秦氏,56歳がなりました。そうしてるうちに,内のメンドゥ,外のメンドゥをみんななくしてしまって,鼓,太鼓,小鼓もすべてなくしてしまったといってきたので,そして世耕のところに掘って埋めたというので,ここに埋めたというのは事実かどうかは知りませんが,アイグ,アイグ,お母さんにいわずに,これを出してやることはできませんし」「それなら,それを出してやろう。やっぱりね。そんな悪いことがあったので,お前はきたんだね。でもまあ,むすめだし,ひとりむすめのいうことをきいてやらなかったらこのろくでなしの女からお母さんが耳障りなことをきくはめになるだろうし,どのみち黙りとおすわけにはいかないのだから,さっさと出してやろう。うちの息子が知ったら,たいへんなことになるだろうけど」。
     李忠春:兄さんが知ったら,たいへんだ。
     梁昌宝:「息子が知ったら,たいへんだ。お前の兄さんにはなんといったらいいかね。お前には兄さんだけど,わたしには息子だからね。お前の兄さんにはなんていおうか。だけど息子が知ったら,『エイゴ,うちの母さんはむすめばかりひいきして,むすめのことばというと,うちの母さんは。エイグ,どこのうちでも,むすめを猫かわいがりするうちはつぶれるよ』なんていって,クッの場で,わたしにいいことはいわないだろうから,どうしよう。でも,なんといっても,ききいれてやらないわけにはいかないし,うん,それじゃ,今度だけはきいてやるよ」こうして,アイグ,窓の穴からみると,うん,まず硯も出している。墨も出している。そしてなんと御璽も出しているぞ。こうしてみんな出しておいて手紙を書いてるじゃないか。上から下にすらすらすらと書いて,きっちりと封をしたぞ。封をしておいて「やあ,別監 はいるかい」「はい」
    [使いが手紙を十王に]

    「この手紙を,若主人さまにお届けしなさい。持っていって十王さまに渡しなさい」「はい。大十王さまにお手紙でございます」「おお,こちらへ持ってまいれ」「はい,はい,これでございます」
     李忠春:しっかり読めよ。
     梁昌宝:よくみると,アイグ,これは封がしてない。この手紙をさっと取り出して,手に取って読んでいきます。「〇〇〇…(未詳)かしこみかしこみ申しあげます」
     李忠春:うーん,こりゃすばらしい。
     梁昌宝:いかにも。名唱だね。今年がどういう年かというと,丙寅の年,月はというと,あの前生をそこねる9月の11日,朝の某時から,大韓民国済州島北済州郡朝天邑新村里テス洞に住む,姓は金氏金允洙,丙戌の生まれ,41歳,堂主の使い走りは姓は李氏,李貞子,乙未の生まれ,堂主の子どもたちは12歳,9歳,弱冠はたち,13歳の子の住む家庭だが,三十王のおかげで,カミのおかげで食べて着て,クッにでかけては稼いだ報酬,もらい物,これらをささげて,御印打印の儀を授かり,薬飯薬酒をいただき,堂布,寺布を担おうと,宮布を担おうと,堂を担うにいたったメインコンサ(儀式)の布,両宮の布をからだに巻きつけて,神房が立って大祭をし,旗も整えて,
    [母から十王への手紙,朗読]

    11日の朝,旗も取り付け,22日には,施しと死霊慰撫までしておいたのだが,ポンメンドゥ,シンメンドゥ,父親のくれた開天門,母親のくれた算盞,神刀,揺鈴,ああ,そればかりか,鼓,太鼓,小鼓,胸背冠帯,冠の紐,藍の緋緞,赤い快子,錦で作った帯,幅広の被り物,上質の網巾,色絹の行纒,白足袋,わらじをすべてなくしてしまいました。出ていくにしても,門前から出ていったでしょう。はいるにしても門前を通ってはいったでしょう。どうか,この災いを防いでください。自分のうちのこととして。
     梁昌宝:(手紙を投げ出して)おれは,こんなことできない。やだよ。
     李忠春:アイグ,でも考えてみれば,ともかく一つの腹から生まれたんだし,おれの親類の頼みだし。 
     梁昌宝:アイゴ,考えてみればだって?そうそう,そうはいっても,なんてたって,むすめには違いない。
     李忠春:そのむすめ,ひとりだけだろ。
     梁昌宝:頭の虱を取ってあげるにしても,やはりむすめのほうがいいものなんだ。なんていっても,母親というのは,「つれない」と感じたら,そのことをむすめにみんないうものだ。そうだ,姑と嫁のあいだではせつない話はできなくても,実のむすめにはみんないうものだ。とすると,それはおれたち神房もみんな知ってしまう。。
     李忠春:お母さんが死んでいくとき,むすめにいったことばがあるよ。「お前のもらうはずの遺産を分けてやりなさい,また遺産が飛びこんでくるかもしれないし」
     梁昌宝:「アイゴ,それだけしかいわなかったか。ところで,いやだということはいえないので,うーん,やってやらないわけにはいかないし,そうだ,冊室 いるか?」
    「おります」「筆を持ってまいれ」。筆がさっと用意されたぞ。そこで,返信をさっと書いて,「おおい,小作管理人(スマルム)はいるか」「はい,おります」「この手紙を母上のところへ持っていってわたせ」「はあ。ご母堂へ書信の伝達でございます」母親が手紙をさっとみると,「やっぱり,わたしの息子だ」
     李忠春:うん,そうだとも。
     梁昌宝:孝行息子だ,孝行息子。母親のことばというのだから,ききいれなければ,それこそ息子ではない。そこで,この書信は懐に入れて,「むすめよ,その神房,名前は秦氏,66歳,あれはもとは神房ではなかったが,40歳を越えてから神房となり,泣き騒いで歩きまわっているんだから,出してやらなくてはならない。歩き回るうちに髪は抜け,残った白髪までもみんな抜けてしまったら,どうするのか。どうか出してやりなさい。そして,またほかにも,だめなのがいるが,新村はあの金允洙,李貞子のもの,今が盛りと花咲かせようと歩き回るときなのに,それをだいじなときに差し押さえてはいけない。出してやりなさい。早く出してあげて大きなクッでもいい,小さなクッでもいいからやるようにといいなさい」「アイグ,お母さん,ありがとうございます。ありがとうございます。アイグ,これだから,わたしはお母さんが一番好きだ。なんてったって,天下にお母さんほどいいものはありません。こうして許可を得たから,さあ,出してあげよう。さあ,
    [むすめが,十王の許可を得て掘ってもっていけという]

    これを掘って持っていきなさい。一千の器徳,三万の祭器,宮殿宮楽を掘って持っていきなさい。ポンメンドゥ(揺鈴)も掘って持っていきなさい。シンメンドゥ(神刀)も掘って持っていきなさい。鼓も,太鼓も,小鼓も音色のよい杖鼓も掘って持っていきなさい」アイグ,いって,ただ「ください」というにしても,礼節をわきまえなくては。
     李忠春:人には体面というものがなくちゃな。
     梁昌宝:体面がなくちゃならないな。さーてと,何を持っていったらよかったかな。アイグ,海辺へいくと,鮫の子がいるから,あれでもひとつ持っていったらよかったな。
     韓生昭の妻:それ,どこのことばだい?チョットムバリだって?
     李忠春:それは,ほらZ義のことばだ。
     梁昌宝:あそこへいくとそういうけど,こっちでは違うね。
     李忠春:うん,Z義の人たちは。
     梁昌宝:そこではどうするんだ。
     李忠春:父親,母親の祭祀によばれていくとき,パッラクとかオレンイとかいうものを持っていったりするよ。
     梁昌宝:こっちへくると,あの,なんだ,鮫の子のことだけど,チョンダニ?
     韓生昭の妻:チョンダニだ。
     梁昌宝:チョンダニが南郡へいくと,チョットムバリといわれるんだよ。アイグ,アイグ,それじゃ,これを持っていけばよかったな。それはともかく,過ぎた歴史は色褪せる,もう仕方ない,過ぎたことだよ。カミさまの,それぞれの膳に盃を用意しろ。カミの命令が下るぞ。

     ウルジョン ナルジョン,カミの綱(未詳)をカミの子が両方の肩に担い,カミを迎えつつ,子供の霊をよんでおいて,ニナノ,本郷(村神)クッをし,堂の棚に,すべての神棚に盃をささげにいこう。

    [歌とともに供物をとりかえる]

     アー,ニナナンニ ナンニヤ ニナナンニ ナンニヤ
     ニナナンニ ナンニヤ ニナナンニ ナンニヤ
     ニナナンニ ナンニヤ ニナナンニ ナンニヤ 
     ニナナンニ ナンニヤ ニナナンニ ナンニヤ
     (くり返される)
     ニナナンニ ナンニヤ ニナナンニ ナンニヤ
     ニナナンニ ナンニヤ ニナナンニ ナンニヤ
     (梁昌宝神房が盃と餅を頭に載せて移動しつつ新しいものに換える)
     内外両方のコンシッサン(恭神膳)を準備しろ。

    セノッリムクッ

     イエごとに出された役価(ヨッカ)(捧げ物)はカミの棚に捧げ,十二重ねの甑餅はカミにさし上げてあります。さし上げてありますから,ポンメンドゥ(揺鈴)を掘って持っていきなさい。シンメンドゥ(神刀)も掘って持っていきなさい。「そうしております」鼓も掘って持っていきなさい。
    [セノッリムクッのはじまり]

    太鼓,小鼓も掘って持っていきなさい。「そういたしました(?)」十王コブンヨンジルへ内メンドゥ,外メンドゥを集めてあります(すべてのメンドゥを大きな真鍮の器に入れて振りつつ)このイエの本主,姓は金氏,41歳と姓は李氏で32歳のする初役礼(願ほどき)のクッです。この役礼で(コブンメンドゥを探しあて,梁昌宝氏は神房の服に着がえて)今日,(金允洙氏は)カミの道を担い,サンシンチュンになろうとしております。
    [セノッリムクッにはいる]

    ポンメンドゥ,シンメンドゥ,サムメンドゥ(算盤),内メンドゥ,外メンドゥを集めまして,ぐるぐると巡るセノリムクッでございます(たいへん速い楽舞)

    (たいへんにぎやかで速い拍子)

     十王コブンヨンジルの儀で堂主の道,身主の道を正しておりますが,このメンドゥの元となる祖先は,外メンドゥとしては,姓は秦氏今年,66歳になる者のからだにおりたものでございます。カミの道をただしてくれた祖先さまは,むかしむかし,李テアンがいたとき,金同知爺さんの身におりたサムメンドゥで,この祖先は他の系へといきましたけれど,梁氏婆さんの身におりた日月祖先さまたちは,堂主三十王さまのところへいってしまわれました。島内(涯月面)高内里にいくと金氏先生がいまして,この方は乙卯の生まれで,その身に受け継いだ霊の道を正しくしてソクサッリムをいたします。この人が亡くなって三十王さまのところへいくと,姓は金氏,辛酉の生まれが日月サムメンドゥを譲り受け,そのカミの道を正し,また姓は文氏,己卯の生まれの身におりた祖先たちもやってきて,カミの道を正してあげました。金同知爺さんのメンドゥも集めまして,それから,梁氏婆さん,金氏先生,またZ義の金氏先生のメンドゥも集めまして(?)振り動かしつつカミの道を正しております。
     さて内メンドゥは,むかし曾祖父の霊験あらたかだった,その日月サムメンドゥが祖父の弟に降り,これが一徹の人,癸酉の生まれの金セワンに伝わり,そして戊戌の生まれの者,29歳のとき北朝鮮にまでいってきて,今も生きている神房(梁昌宝)が臨時に身に受けてお仕えしております。むかしのサムメンドゥ(巫具)も内メンドゥとして置いてあります。__________(未詳)この金家の41歳と(夫人の)32歳の身におりた日月祖先,サムメンドゥはこのムラに高氏お母さんが住んでいたときは,都合が悪く(?)譲り受けされず,この祖先を手本にして,作るようにというので,金物を乞い集め,(金氏)29歳のときに,城内の韓テジャンのところにいき,お手本にならったいいメンドゥを得て,これにお仕えしています。そののち,高氏お母さんが69歳のときなくなられ,三十王のところへいったので,メンドゥを譲り受け,同じ一つの堂主,同じ一つのメンドゥ,同じ一つの祖先となりました。それは,むかしむかしネパックル(川外洞)の高氏先生のものを手本にした日月サムメンドゥであり,それはまたチョチョングヮン(地名)の安神房,安先生のものを本にして作ってもらったメンドゥです。そののち,兄弟の関係となった,姓は金氏,己酉の生まれの身におりた祖先もきています。姓は李氏壬申の生まれの身におりた城津(?)李氏の祖先たちは,むすめのためにその身におりようとしたもので,姓は梁氏,甲戌の生まれの身におりた日月祖先さまです。
    [内メンドゥの系譜]

    姓は韓氏,丙子の生まれの身におりた祖先さまは,また姓は金氏,乙未の生まれの身におりた祖先さまで,さらにまた,姓は金氏乙丑の生まれの身におりた日月祖先さまです。メンドゥの威力(?)(メンドゥを順に立てろというのですか),メンドゥの道を正しもうしあげましたので,姓は秦氏辛酉の生まれの身におりた祖先さまは,今はおさがりになり,どうかどうかおさがりになってください。そうして,内メンドゥの高氏先生の祖先と,堂主さまの前へ出してクッをするのに用いた日月祖先さまは前にいらしてカミの道を正してください。
     そうして祖先さまのうち,どのみちおもてなしできない祖先さまはおさがりになってもかまいません。こういっても,まさか祟りをお授けにはなりますまい。こうして,
    [最後の速い舞,そして占いへ]

    日月サムメンドゥ,内メンドゥ,外メンドゥを集めまして,ぐるぐるぐるっと,セノッリムクッをいたします。(楽舞。ひじょうに早い拍子)
    (以下,占いがあって儀礼が終了する 占い省略 訳者注)


    注(資料コブンメンドゥ)

    1. コブンメンドゥとはなくした神物である明斗を探すことである。この箇所では,神物のかたちを謎解きの問答形式でいいあてていき,いざ,いいあてると,そのいいあてた者をうちたたきながらほめるという,諧謔性をみせる。
    2. 神房はクッをして病を治すために,医員ともいう。金医員は金允洙神房のこと。
    3. 文石南氏を。文石南神房は何年か前になくなった。
    4. 北済州郡涯月面光令里で。
    5. 当時はクッをすることを違法だといって警察で取り締まった。
    6. 新郎がきて連れていく前に,新婦がのぞんでまず先に新郎のところへいく婚姻。アムチャンガ。アギシが身重の身でチュジョプ先生をまず訪ねていくのをさす。
    7. カムテは防寒帽のひとつ。
    8. ヨプクンサン(近山)か。「チョックムサン(赤金山)」とする者もいる。
    9. 「ねんねんころり」というときの済州民謡のくり返しの文句は「ウォンイチャラン」。
    10. .これは別の折には,三千の儒生が水明紬戦帯で首をくくって三千帝釈宮の奥深いところに閉じこめたともいわれる。また,ムルメンジチョンデで首をくくって殺してから,仮埋葬したともいう。いずれにしても,三千の儒生が灰かき三兄弟の母親を殺したのは確かである。
    11. チュルビョンマク。正式な埋葬をする前に亡きがらを近くの場所に一時埋めておくこと。
    12. オッレ。道端から大門にはいっていく通路,進入路。
    13. ユッカンチェビは占い師が占うときの道具。ユッカンチェビのように占いに使う物という意味。
    14. カミの道を正しく立てて明斗を探してやるのが,クッをする神房の責任なのに,クッに使う天門を盗まれたのでは話にならないという意味。
    15. バルバリ。毛がふさふさとして,小さい愛玩用の犬。見知らぬ者をみると,おそろしくほえたてる
    16. パンサンギは膳をひとつ調えるべく用意された一揃いの食器。
    17. 門前神の膳。巫俗のカミである門前神のために設けた膳。済州島ではチェサ(祭祀)をやる前に門前神にまずお供えをあげる。
    18. 民謡「ふいごの唄」の一節。ふいごを吹く作業をする光景を描いたもの。
    19. 巫祖三兄弟のうちの第一番目,メンドゥ(明斗)としてはヨリョン(揺鈴)。
    20. 巫祖三兄弟のうちの第二番目,メンドゥ(明斗)としてはシンカル(神刀)。
    21. 硬貨のかたちの一対の貨幣。その上に天地日月などが彫られている。真鍮の算盞のようなものとこれを載せる算台を合わせて,第三のメンドゥ「サンパン(算盤)」という。またこの算盤は巫祖である三兄弟のうち三番目のサラサルチュクサムメンドゥを意味する。
    22. 真鍮の盃のかたちをしたメンドゥ。巫祖三兄弟の母親が巫祖三兄弟を生んだとき,この子供を湯浴みさせた「沐浴の算盞」をかたどって作ったという。
    23. サムベクトリ。つばの幅が三百になるように編んだカッ(被り物)。
    24. ジンサニャンカッ。黒々と濃く染めた被り物。
    25. 服を脱いでいるので,相撲をやるのにふさわしいと考えて相手を紹介している。梁昌宝神房はひどくやせていた。おそらく,金グヮンス神房もひどくやせていたのだろう。
    26. トゥルエは気の触れた者。安トゥルエは今は故人となった安士仁神房。かれもやはりやせていた。
    27. 安士仁神房は当時,病床にあった。
    28. 呉方健は「鳴け」というのをきいて,人が泣くまねをした。
    29. ここでは花札あそびの場で酔っ払った神房が朝,起きてクッをするようすをまねしている。
    30. 水桶というのをみると,タンジは小便桶のヨガンタンジのことである。済州島では寝室から厠まで,遠く離れているので,女性にとって,部屋に置いて用を足すのに使うヨガンタンジはだいじだということである。
    31. チェップル日月祖先ともいう。一族や一家を守護する祖先のうち,経を読んだり本を読んで占いをしてやる者とか,天文地理に通じていた者をのちにカミとしてまつるにいたるとき,この祖先神をチェップルイルウォルという。
    32. 神房や占いのことをこうよぶ。「ものごとに通じているオルン」。(訳注オルンは大人,目上の人などを意味するのでとりあえず「せんせい」とした。なお,沖縄でムヌシリというのもやはりカミに仕える者のことである。)
    33. 直前の「アッパン=アッパソ(痛くて)」ということばを地口式に「アップ(前)がハン(たくさん)」と置き換えて解釈したもの。「前がたくさんだというなら,うしろに押せばちょうどいい」ということ。
    34. 呪文である。
    35. タバルには韓生昭(ハンセンソ)神房が住んでいる。
    36. 李忠春神房のこと。
    37. 農耕神の世耕ハルマン,チャチョンビのこと。神房は美貌の農耕神チャチョンビとたいへん近い関係であるかのように話をしている。
    38. 「ポジクリプタ」は南済州郡テジョン地域の「会いたい」。ところで「ポジ(女性性器)がクリプタ(なつかしい)」とまちがわれやすいため,ここでは,いたずらにいったのである。
    39. 母親の住むところの名前。ノルは山頂。
    40. 首神房(秦夫玉)のメンドゥ。

    訳注

    1. メンドゥは巫具のこと。その表記は明斗,明刀,明図などがあるが,いずれも当て字。ここでは「明斗」で統一した。
    2. 原文はチュジョプ先生だが,他の採録本と対照させると,チュジャ(朱子)先生の転訛のようである
    3. 原文はクォンジェサムムン。玄容駿氏は「勧斎三文」の字を充てて,施しの米かとする。今,これに従った。
    4. ここで梁昌宝神房は室内に設けたシワン(十王)の棚の上に揺鈴を載せ,これで巫具をなくしたという設定のもと,小巫たちと対話をしポンプリをとなえていく。その,多分に演劇的なかたちは,太鼓の撥,サンパン(算盤),杖鼓,鉦,衣服などについても同じようにくり返される。そして,最後に,すべてを「失ってしまった」ということになり,これを取り戻す過程が演じられる。
    5. 今回の神クッにおいて,神房たちのまとめ役は年長の秦夫玉氏が担った。この役を首神房という。
    6. こうしたことばあそびは,陸地のクワンデたちが仮面戯のなかで駆使するものと通じる。済州島には特別な芸能者が生まれなかったが,神房がその役割を果たした。以下の台詞をみていけばわかるとおり,神房の才談はかなり奔放である。おそらくクワンデのことばの世界の淵源もこうしたクッの場にあるのだろう。
    7. 神房はここから,また初公本縁譚をとなえていく
    8. ノウルは女性の顔を隠すための絹の覆い。なお,今回の神クッでは,「初二公迎え」「堂主迎え」のなかで,初公本縁譚をとなえつつ,この,むすめが僧を迎える印象的な箇所が実際に演じられた。そこではもちろん,簡単にこしらえた顔覆いで代用したのだが(拙稿「神クッーカミと人のドラマ(その二)」『慶應義塾大学日吉紀要』No.17,1996年の図版3,4参照)。
    9. 原文はサンノム。サンノムということばは両班と対比して常民をみくだしてよぶときに用いる。
    10. ここには父親つまりイエから捨てられる女の像がある。これは死霊祭のときに語られる「捨てられ姫」にも共通し,また日本では説経節『山椒太夫』の安寿姫や『小栗判官』の照手姫などにも通じる。これらの女性にはいずれも死と再生が暗示されている。おそらく巫覡の語りの根柢のところにははじめに「死ぬ女」があって,これがカミに転化したのであろう。
    11. 建国記念日
    12. 文武秉氏の夫人。今回の神クッの記録を取りにきていた。
    13. ここには仏教,特に淨土教の方で説く「二河白道」のイメージが反映されているのかもしれない。火の河と水の河を東から西へ渡れば極楽へ至るのであるが,これを渡す道が白道である。このイメージは韓国仏教の歴史において必ずしも表面化されていないが,日向一雅氏は,それが巫俗に反映されているのではないかという視点から注目すべき問題提起をしている。日向一雅「「二河白道」と韓国巫俗儀礼2」『明治大学人文科学研究所紀要 第34冊』1993年,参照。
    14. このことから,この三兄弟を「灰かき三兄弟」と通称する
    15. この数え歌風の台詞もクワンデの常套句のなかにある
    16. ここには,よく弓射る者といったイメージがあり,これは高句麗の建国神話に著名な朱蒙に通じるところがある。いずれも祝福されない出生,苦難の遍歴という過去を負いつつ始祖となる。
    17. 文武秉氏は母親の恨の象徴かという
    18. アイグ,アイゴ,エイグなどはいずれも日常,頻繁に用いる感嘆の表現で,「ああ,うわっ,おお,ええっ?」などいろいろ訳語が考えられるが,ここでは敢えてこのまま用いた。
    19. 朝鮮社会ではどのイエでも四代前の祖先までをその命日にまつる。これは現代韓国ではなお依然として守られている。
    20. ここで,梁昌宝神房はまた初公本縁譚の語りにもどる。
    21. 朝鮮朝の身分階層のひとつ。両班の下で,官庁の実務を司る。
    22. チョガムジェは招神祭。前引拙稿「神クッーカミと人のドラマ(その二)」『慶應義塾大学日吉紀要』No.17,1996年,57頁の注6参照。
    23. 原文はホンペ。これについて文武秉氏は「紅牌」として「科挙に及第した者に対して,その成績の等級および姓名を記録して,渡された赤い紙の合格証」というが,文脈から「ヒュンベ(胸背)」と取った。ヒュンベは官吏の服の胸と背中に鶴や虎の絵を刺繍したもの。
    24. 女がうるさいとろくなことはない,ということ
    25. この同音異義語を使った才談のやりとりはクワンデの仮面戯にも頻発する
    26. ハンにはハンアリチマ(裳)とハンアリ(甕)とが掛けられていて,その縁でタンジ(小甕)といったようだ。
    27. いい加減な年齢をいって笑わせるのは男寺党の「イシミ」の場にもみられる。そこでは朴僉知の孫が「おれの年は八十二さ」「うちの爺さんは十二,うちの父さんは七つ,うちの母さんは二つだよ」などといっている(拙著『仮面戯と放浪芸人』ありな書房,1985年,191頁参照)。
    28. 灰かき三兄弟が生まれたのが九月なので,こういった
    29. セギョン,ムンジョンはそれぞれ,地の神,門の神だが,いうまでもなく,これは地の上を歩いて門からはいった,あるいは門から外へ出ていったということをいってるだけのことで,なにもいっていないのと同じ
    30. 実際の家族かどうかはともかく,姉と弟のこの戯画的な対話はクワンデたちの得意の台詞だったようである。たとえば『楊州別山台戯』のなかで,トッキという名の弟が姉を訪ねていって交わす台詞にも似たものがみられる。
    31. 梁昌宝神房は南郡を地盤として活躍していた。現在は大阪に居を移して活動している。
    32. このあたりの台詞は梁昌宝神房がひとり二役でかなりの速さでしゃべりまくる。それは朝鮮朝のクワンデらの「笑謔之戯」をおもわせる。
    33. このコブンメンドゥの儀を担っている梁昌宝氏は金允洙氏と親類関係にあたる
    34. このあたりの梁昌宝神房は,ひとりで四役をやっている。息子,母親,むすめ,そして巫具を紛失しただめ神房の役である。即興の感じで語りまくるがひとつの型ができているのだろう。
    35. ニナノ,ナンニヤなどの語が次の歌のなかにくり返されるが,これらのことばそのものには特定の意味がない
    36. この場合,内と外のコンシッサンがある。すなわち,金允洙氏家を中心としたメンドゥ(巫具)を安置するための膳と外部からきた神房のメンドゥを安置するための膳との2種類である
    37. 済州島の神房は「神クッ」をするたびに下シンチュン,中シンチュン,上シンチュンと位があがると考えられている
    38. モムジュは神房の身を守護するカミ。結局,タンジュ(堂主)とモムジュは同じことになる。
    39. つまり故人となったということ

神クッ−カミと人のドラマ