1.オグクッとは何か

朝鮮民族は死者の霊は死なず、あの世にいってもこの世と同じ営みをするものと考えてきた。この世に不幸、悲しみがあるように、霊魂もまた憂え、嘆くとすら考えた。それゆえ死者霊の弔いには多大な時間と想像力を費やしてきた。それをもっともよく示すのが死霊祭である。これは全羅道のシッキムクッ、ソウル地方のチノギなど、地域により名称はさまざまであるが、そのいずれにおいても音楽と舞そして唱えごとが独特の構成をもって演じられ、豊かな芸能性を伝承している。
　慶尚道の死霊祭はオグクッまたはオギクッとよばれる1）。。東海岸および慶尚南道南部の海岸地帯などで、特に顕著にみられる2）。釜山地方では、生きている者の霊をあらかじめ極楽に送るために「生オグクッ」をすることがある。なお、仏教儀礼のひとつに「生前予修斎」があり、これがやはり生前に功徳を積めば、死後、極楽にいけるという趣旨でおこなわれる。この観念は、日本でも「逆修」といって古来多くみられた。これらは巫俗というよりは仏教的なものといえよう3）。

注釈

1）オグクッのなかには海で溺れた者を済度する水亡クッまたはノクコンチギクッも含まれる（金仁會、金秀男『スヨン浦水亡クッ』、悦話堂、1985年、81頁）。オグの語義については定説がない。京畿道の死霊祭チノギクッが「チン・オギ・クッ」と分けられるので、これと関連するかという説は秋葉隆により出された（赤松智城・秋葉隆『朝鮮巫俗の研究』下巻，大阪屋號書店、1938年,186頁)｡また金泰坤は｢悪しき･獄｣と分析してみせたが､いまだ仮説の段階である(金泰坤『韓国巫歌集』１、集文堂、1971年,87頁)｡なお、忠清道では死霊祭をオギクッとよんでいる（韓国民俗辞典編纂委員会編『韓国民俗大辞典』２、民族文化社、1994年、1329頁）。
2）なお全羅道でもオグクッということばを用いる（韓国民俗辞典編纂委員会編『韓国民俗大辞典』２、民族文化社、1994年、1329頁）。
3）崔吉城は、「生オグクッは仏教的儀式だ｣といい、主に釜山地方でさかんにおこなわれており、他の地方ではみられないと述べている（前引、崔吉城『韓国巫俗の研究』、199頁）。

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