トップ早池峰神楽

3. 山伏神楽の舞台と道具


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山伏神楽の舞台は周りに注連縄を張った約二間四方の板の間で、これを舞殿と呼んでいる。そしてこの舞台の正面奥に神楽幕という幕を張り、この内側を楽屋とする。舞手はこの幕をくぐって舞台に出入りする。また神楽の最初に演じられる六曲の式舞の折にはこの幕の上に白扇をかかげる。これは雲張りと呼ばれ、神降臨のしるしとされている。これは幕内から舞台上の囃子方に対して準備ができたという合図にもなっている。舞台正面手前には胴取り<太鼓打ち>が観客に背を向けて座り、その左右に銅拍子をもった者が座る。山伏神楽は神社の祭礼などの折に神楽段で演じられる以外は民家で行なわれる場合がほとんどである。この場合もほぼ同様の舞台の形式がとられている。

さて、この山伏神楽の舞台構成の宗教的意味を考えてみると、まず全体を神々の居住する天上界にあたる楽屋、神々の出現の場である舞殿、観客席の三つの部分に分ける事ができる。しかもこの三つは同一の平面上にあるのである。そして胴取りの太鼓の音に導かれて神々に扮した舞人が天上界にあたる楽屋から出てきて舞うのである。天上界と地上の垂直の関係がここでは水平の関係になっているのである。胴取りは、神々を天上界からこの舞殿に導き、神と人の交流の橋渡しをする媒介者なのである。胴取りの打つ太鼓は力強く、その威力によって神を降ろすのだという意志すら感じられる。また観客もこの太鼓の響きにいざなわれて、いつの間にか神々の遊ぶ世界に引き込まれてしまうのである。太鼓は牛皮でできているというが本来は馬の皮だったのではないかともいわれている。天上から神々を招く天馬を意味したのかもしれない。 岳神楽では胴取りの太鼓のバチにはアマネという堅い木が用いられている。胴取りが自ら山へ行って手頃なアマネの木を探して、それをけずって作るのである。太鼓のひびきの効果をねらって他の神楽のものと比べて太目のものを用いるという。この太鼓に加えて、地元ではチャッパと呼ぶ銅拍子が効果を倍増させる。二枚の丸い鉄の銅拍子を打ちあわせる音は耳をつんざくように鋭く強い。太鼓と銅拍子の他に山伏神楽には笛と謡も入る。もっともこれは観客席からは見えない。幕の内側で神に扮した舞人の出現にあわせて笛が吹かれ、謡がうたわれているのである。この幕内の謡と胴取りの掛け合いは神とそれを招く仲介者との掛け合いとなっているのである。



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