日本最古の縄文埋葬犬

上黒岩岩陰の位置(江坂ほか1967を改変)
埋葬犬骨の出土状況(久万高原町提供)
1962年に愛媛県久万高原町(旧美川村)上黒岩岩陰遺跡から発掘された二体分の犬骨は、日本最古の埋葬犬骨と言われながら、調査終了後所在が不明となっていました。慶應義塾大学民族学考古学研究室では、2011年の春、三田キャンパスの考古資料収蔵庫の一角よりそれと思われる二体分の犬骨を発見しました。その後、東京大学、北海道大学、聖マリアンナ医科大学の研究者らの協力を得て慎重に調査・研究を進めた結果、それらが上黒岩岩陰遺跡から出土した犬骨であることがわかりました。
複数の機関による測定を経て、同二体分の犬骨からは、それぞれ縄文時代早期末から前期初頭に相当する放射性炭素年代(ca. 7,400~7,200 cal BP)が得られました。また、形態観察の結果、それらは長谷部(※1)の分類による「中小級」・「小級」の大きさに相当し、従来知られている縄文犬とほぼ同様の形質的特徴を備えていることを確認できました。さらに、同二体分の犬骨については、既に古代DNA解析や安定同位体分析も試み、それぞれ興味深い成果が得られました。日本最古の犬骨が発掘されたとして知られる神奈川県夏島貝塚出土下顎骨群も含め、縄文時代早期の犬骨に埋葬された状態で発見された資料がなく、また、これまで骨自体から年代測定を試みた前例もない中で、全身骨格の特徴も把握できる前期初頭以前の犬骨を発見できたことは大きな意義をもちます。
今後、これらの多角的な調査・研究成果は、縄文時代の日本列島に暮らしたイヌ・人の系統、また両者の関係史を解明する重要な手がかりになると考えられます。


(※1)長谷部言人 1952 「犬骨」文化財保護委員会編『吉胡貝塚,埋蔵文化財発掘調査報告,第1』文化財保護委員会.146-150